WideStudio/MWTの平林俊一氏
WideStudio/MWTの平林俊一氏
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Seasar2のひがやすを氏
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Sylpheedの山本博之氏
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USAGIの吉藤英明氏
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 「ばらばらに分断されている組み込み機器の開発環境で,共通に使えるソフトウエア・インフラを整備したかった。そのための手段がオープンソースだった。オープンソースは横断的な開発に向いており,ものづくりの現場に浸透してきている」---2006年度日本OSS貢献者賞を受賞した平林俊一氏は10月25日,授賞式で同氏が開発したオープンソースのマルチプラットフォームGUI開発環境「WideStudio/MWT」が普及した理由をこう語った。

オープンソースで日本のソフトウエアを強く

 日本OSS貢献者賞は,独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が2005年に開始した,オープンソース・ソフトウエアへの貢献者を表彰する賞。2005年度から開始され,今年はSeaser2を開発した比嘉康雄(ひがやすを)氏,WideStudio/MWTを開発した平林俊一氏,Sylpheedを開発した山本博之氏,IPv6プロトコルスタックUSAGIを開発した吉藤英明氏の4人が選ばれた。

 審査委員長を務めた東京工科大学 学長 相磯秀夫氏は「国際的にどのような貢献を行っているか,産業界にどう評価されているかにウェイトを置き受賞者を選んだ。特に若手に注目した」と審査の基準を語った。「日本のソフトウエアの力は,残念ながら強くない。しかし,オープンソースを上手に使えば強くできる」(相磯氏)。

新技術ではない,地道にコツコツと作り上げた

 WideStudio/MWTは,マルチプラットフォームのC++ GUIライブラリであるWMTと,その統合開発環境であるWideStudioで構成される。EclipseのプラグインであるNative Application Builderも公開している。Linux,Windows,Windows CE,iTRON,T-Engine,Solaris,FreeBSDなど様々なOSで,同じソースコードでGUIアプリケーションを動かすことができる。

 「新しい技術を使ったわけではない。地味にコツコツといろいろなOSに移植してまわった。画面部品は全て自前で実装し,ソースコードは80万行になった」(平林氏)。同じように地道な努力を継続できたライバルは他になかった。枯れた技術を使ったため,Javaなどに比べMWTはコンパクトで処理速度の速いものになった。WideStudio/MWTのユーザーは海外を含め数万人におよぶという。

 平林が危惧するのは,統合開発環境の標準であるEclipseプロジェクトでの日本の存在感の希薄さである。「MWTのNative Application Builder(NAB)」のほかに日本が中心となっているEclipseのトップレベル・プロジェクトがない。組み込み本場の日本がこれでいいのだろうか」(平林氏)。

まずは自分でコードを書こう

 ひがやすを氏は,J2EE(Java2 Enterprise Edition)のDI(Dependency Injection)コンテナ「Seasar2」の開発者である。当初から現場での業務システムの開発生産性向上を目的に開発された。すでに大規模サイトを含め多くの採用事例がある。またSeasar2に関連する数十のオープンソース・ソフトウエア開発プロジェクトが存在する大きな開発コミュニティが育っている。授賞式ではSeasar2とその関連オープンソース・ソフトウエアにより,コードを一行も書くことなく表形式のユーザー・インタフェースを備えたデータベース検索・更新Webアプリケーションを作成するデモを披露した。

 ひが氏は「授賞は,これからオープンソースに貢献しなさいという励ましの意味ととらえている。若い人たちが『こういう人がいるなら入っていきたい』と思えるような存在になれるように頑張りたい」と述べた。

 そして後進に対するメッセージとして「まずは自分でコードを書くこと。決して頭でっかちな『なんちゃってアーキテクト』にならないでほしい」と語った。

自分で使いたいものを作った

 山本博之氏はメール・クライアント「Sylpheed」の開発者である。OSS貢献者賞受賞者の中で最も若く,31歳。Sylpheedは大学在学中に開発を始めた。「既存のメーラーで自分が使いたいと思ったものがなく,開発を始めた」(山本氏)。

 個人で地道な活動を続け,現在Sylpheedは多くのLinuxディストリビューションに標準のメール・クライアント・ソフトとして採用され,世界的に普及している。

より普遍的に考え,信用を積み上げる

 吉藤英明氏はIPv6のLinux用プロトコル・スタック「USAGI」を中心となって開発した。USAGIの開発はWIDEプロジェクトのもとで行われた。開発だけでなく,吉藤氏らの努力によりLinux本体にも統合された。

 吉藤氏は開発した成果がメインストリームに組み込まれるために「より普遍的に考えること,信用を積み上げることなどが重要」と指摘した。