瑞宝の店内。個室もある
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バックヤードにあるサーバーラック
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 慶応義塾大学に近い東京都港区芝に、開店2カ月にもかかわらず、早くもリピーター比率が25%に達した高級和食レストランがある。店の名は、「瑞宝」。今年8月7日にオープン。口コミだけで顧客層を拡大した。オープンからの2カ月で最大11回来た顧客もいるという。

 見た目では分からないが、瑞宝は「ITレストラン」という顔を持つ。店内のバックヤードにはサーバーラックが2本。飲食店としての業務の多くをIT(情報技術)で支援する。客席も含め無線LANが整備されている。

 瑞宝では、雰囲気を損なわないよう、店員は携帯情報端末やメモを使わない。その代わり、「音声CRMシステム」を活用。店員は顧客から「薄味が好き」「ネギが苦手」といった好みを聞き出し、バックヤードに戻ってからマイクに向かって聞き出した内容をしゃべる。音声認識ソフトを通してテキストデータとして記録。この内容は厨房のパソコン画面に表示され、調理のための情報として使う。

 さらに、来店した全顧客の情報をシステムで管理。これで顧客のリピート状況などを把握する。同じ顧客が再来店した際は「音声CRM」に記録された好みの情報を呼び出して対応。個室の空調や照明の加減なども前回来店時と同様に調整できる。店員の給与は担当した顧客の売り上げに連動して自動計算され、担当した顧客がリピート顧客になった場合はさらに給与を加算する。

 また、ブログなどインターネット上に書き込まれる情報を収集・分析する「リアルタイム・マーケティング・システム」を活用している。瑞宝に関する書き込みだけではなく、競合する高級和食店の顧客の声も分析し、これを踏まえて、当初の食事中心のメニューだけではなくお酒を楽しめるメニューを追加するなど、マーケティング戦術を微調整している。

厨房機器の自動コントロールも

 将来的には、厨房の自動化も視野に入れている。瑞宝の厨房にはマイコン制御が可能な機器を設置。これを改造してサーバーと接続する作業を進めている。今後開発を進め、音声CRMから得た情報を調理作業に自動反映したり、サーバーから厨房機器にレシピ情報を配信し、火加減などを自動制御して熟練した料理人がいなくても設定した通りの調理が自動的にできるようにする計画だ。

 瑞宝を運営するのは、MHSダイニング(東京・港)。新日本製鉄で情報システム畑を歩み、ソフトバンクBBで戦略情報システム部長を務めた沼本浩社長が、2005年9月に創業した。ITの導入が遅れている飲食・サービス業でのソリューション提供事業を営むが、ソリューションのショールームとして、瑞宝を直営店として出店した。

 今後は、海外展開を視野に入れている。沼本社長は、「海外で日本料理の人気は高いが、調理や運営のノウハウがなく、日本人料理長が必要になるなど出店は困難。当社のソリューションを使って、海外で日本料理店が容易に出店できるようにしたい」と話す。既にスペインやマカオで出店交渉が進んでいるという。