インテリジェンスの古市知元・常務。2002年4月にマッキンゼー・アンド・カンパニーから転職し、2002年10月に始めたブランド構築プロジェクトを指揮
インテリジェンスの古市知元・常務。2002年4月にマッキンゼー・アンド・カンパニーから転職し、2002年10月に始めたブランド構築プロジェクトを指揮
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 人材紹介・派遣サービス大手のインテリジェンスが、10月から始まった2006年度中にも新たなブランディング戦略を打ち出す。今年7月に経営統合した学生援護会が持つ「an(アン)」や「DODA(デューダ)」といった知名度の高い求人情報誌などを、いかにインテリジェンスの企業ブランドの向上に結びつけるか。現在、具体策を詰めているところだ。

 実は、インテリジェンスは2004年5月に、企業ブランドの認知度やイメージの向上を目指すブランディング活動をスタート。それまであいまいだった経営理念と企業ブランドをきちんと明文化して、それらを社内外に徹底的に啓もうし続けることによって、2007年度までの3大目標「働きたい企業ナンバーワン」「顧客満足度ナンバーワン」「ブランドパワー ナンバーワン」を達成しようとしてきた。すでに大きな成果が出つつある。

 例えば、「はたらくを楽しもう」というブランドスローガンの認知度が徐々に高まり、2005年9月の都内での社外調査では24%だったが、今年2月には38%まで拡大。同業者のブランドスローガンの中では認知度が最も高くなったという。スローガンの認知度が高まれば企業の認知度も高まり、法人営業がしやすくなるうえ、同社に登録しようという個人顧客も増える。

 ブランディング活動のおかげで、インテリジェンスは正社員の離職率も大幅に低下した。同社は以前は起業を推奨する風土が強かったため離職率が高かったが、事業拡大に伴い、優秀な人材は10年は引き留めたいと考えるようになっていた。離職率の具体的な数値は明らかではないが、社内調査によると、「明日転職するなら当社を選ぶ」と考える社員が60%から69%に増えたという。この数値は2004年7月と2005年6月の比較。同社はブランディング活動による社員の会社や仕事に対する意識の変化を毎年1回ずつ調査し続けている。「ブランドが仕事に良い影響を与えている」と考える社員は52%から73%まで増えた。実際、2006年9月に終わった2005年度の業績は過去最高となる見通し。4期連続の増収増益で、売上高526億円、営業利益36億円である。

 同社は具体的なブランディング活動として、テレビや新聞、雑誌、電車などでの積極的なブランド広告はもちろん、企業ロゴを刷新したり、インテリジェンス・ブランドの意味を説明する小冊子とカードを配布している。「事例などを紹介するイントラネット上のブランディング活動ページもすごい数になってきた」(古市知元・常務)。さらに、鎌田和彦社長が社員に対して事あるごとに企業ブランドの重要性を訴えている。同社のブランド構築プロジェクトを支援したコンサルティング会社グラムコ(東京・中央)の山田敦郎社長は、「鎌田社長は自社ブランドに合わない事業には手を出さないというほどの強固な意志を持つ」と明かす。

 またインテリジェンスは、本社が入居する東京・丸の内ビルディング(丸ビル)の1階ホールで、「はたらくを楽しもう」と銘打った社外イベントを数回開催。本社の真下で大々的なイベントを開けば社員の士気は高まるし、衣と食の流行発信基地として日々賑わう丸ビルでのイベントは宣伝効果も大きい。

ブランディング活動が業績向上に結びつく

 もっとも一般には、ブランディング活動は短期間で業績に寄与するとは限らない。インテリジェンスのブランディング活動はなぜ、業績向上に結びついているのか。その答えは、人材サービスの特性と同社の歴史にある。

 人材サービスは、無形の専門性が高いサービスだ。このため、「サービスを使ってくれた人の頭に『信頼』の2文字が残るかどうかが重要。つまり、ブランド力が競争力そのものになる」(古市常務)。利用者に良い記憶が残れば、自然と良い噂が広まり、「あの会社の人材サービスを受けると良い経験ができる」というブランド力が付いていく。

 インテリジェンスは1989年に、現社長の鎌田氏、現会長でUSEN社長の宇野康英氏など4人が立ち上げたベンチャー企業。2000年の上場と前後して業態も規模も急拡大し、社員数600人、売上高200億円まで成長した。しかし、起業家精神にあふれた人材ばかりが集い、あうんの呼吸で活動していた創業期とは違って、安定志向など多様な思いが交錯するようになり、サービス品質が不安定になったり、業務に非効率な面が目立ち始めた。こうした一種の大企業病にかかりかけていたため、経営理念や行動指針を明文化してそれを企業ブランドという形で社員に分かりやすく伝えることが、有効な治療法となったのである。

 同社は、「多様な働き方・雇用形態の提案を通じ、個人と企業の喜びや満足までぴたり合わせ、両者の成長を長期的に支援」などのブランドコンセプトを定義。しかし、これだけでは社員一人ひとりの日々の業務と関連づけにくい面もある。そこで、「お客様や私たちにとってブランドがどんな意味を持ち、どんな行動をとっていくべきか」について、各職場で1~2カ月かけて真剣に議論した。