農地一筆マップの画面
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システム開発で中心的な役割を果たした地域研究グループの藤山浩科長

 島根県の調査機関である島根県中山間地域研究センターはこのほど、県内の農落が将来の土地利用を計画する際に使えるシステム「農地一筆マップ」を稼働した。新システムは、ウェブ上で利用できる地理情報システム(GIS)が基本になっている。

 中山間地域とは、平野部ではなく山や林地でおおわれている地域のこと。中山間地域は、農家が集落を形成していることが多い。集落はシステムを活用することで共同の防護柵の改修計画を立てやすくなったり、農林地の管理に役立てられる。

 このシステムを既に島根県匹見市にある20の集落をはじめ50集落が導入した。今後、同センターは県内に3500あるといわれている集落に参加を呼びかけていく考えだ。

 農地一筆マップには、農業を営むうえで必要な情報を一元管理できる。マップには、農地や水路、鳥獣防護柵、イノシシといった動物の出没場所といった情報が入っている。農地に関しては一筆(土地登記簿上の一区画)ごとに、土地所有者の年齢や後継者の有無といった土地に関する情報や、栽培している作物の種類といった生産情報など様々な情報が登録されている。

 新システムに入ったこれらの情報を活用し、集落は自らの長期的な課題への対策を考える際に役立てる。鳥獣の防護柵といった共同利用する施設の修繕計画を立案する際に、システムに登録してあるイノシシが出没した位置情報を加味して判断できるといった具合だ。

 また所有者情報には年齢も含まれている。農業の従事者が、5~10年後どのような年齢構成の分布になるのかシミュレーションできる。集落の将来を見すえて、早く対策を打てるようにする。「集落としての長期計画を立案する際に役立てて欲しい」と地域研究グループの藤山浩科長は語る。システム導入前の集落の会合では、紙で書かれた台帳を持ち寄って議論してきた。新システム導入により情報がそろった地図を見ながら議論できるようになった。

農産物販売サイトとも連携

 こうしたシステムが必要な背景には、過疎化により農業の担い手が減少していることが挙げられる。島根県の耕地面積は5年間(2000年から2005年)で3700ヘクタール減少し、耕作を放棄した面積は1200ヘクタール増加している。土地の所有権が誰にあり、どういった人が営農しているのか、集落として把握できる仕組みが必要となった。

 今後、地図で情報を管理できる点を生かして農作物の価値向上にも役立てる。具体的には県が運営する農作物販売サイト「おいしさ満載ネット」と連携する。

 同サイトで販売している農作物は、環境に優しい農業を目指した農家が栽培している。生産履歴の中に、耕作地の位置情報を掲載する。より詳細な情報を提供することで、ブランド価値の向上を目指す。例えば、農薬を使わない代わりにおたまじゃくしを活用している田んぼの位置を紹介して、見学会を行うといった具合だ。「情報を提供することで農作物の付加価値を上げていけるような使い方を模索したい」と藤山科長は意気込む。