「子供の頃、母親によく掃除をさせられた」と話すジェームズ・ダイソン会長。「そのときから従来の掃除機に対する不満が募っていたのかも」と笑う
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 掃除機メーカー英ダイソンの日本法人、ダイソンはこのほど、新製品の「dyson plus」を発売した。2004年に発売した「DC12」を後継する。

 ダイソン製品は、紙パックを使わず、遠心分離装置でゴミを空気から分離する「サイクロン技術」に特徴がある。日本専用製品として小型、軽量化を実現したDC12に続き、dyson plusでは、排気が床面のホコリを巻き上げないようダクトを上向きにしたり、ゴミ収集容器に抗菌プラスチックを採用したりといった、日本の顧客のきめ細かいニーズにこたえた改良を行った。

 7万~8万円という店頭価格は、一般的な掃除機の3~4倍。日本での台数シェアは5%前後に留まるものの、金額シェアは14%と、松下電器産業、日立製作所に続く3位グループに食い込む。東芝など他メーカーも相次いで高価格品の提供を始めるなど、掃除機のプレミアム市場が形成される端緒を作った。

 同社の創業者であるジェームズ・ダイソン会長と,日本法人が提携する広告会社、ファロン(東京・渋谷)のフィル・ルベル取締役へのインタビューから、日本市場におけるダイソン急成長の秘密を探った。

「ものづくり」への執念

 「安くてそこそこのものを作るのは簡単だが、高価格品で顧客の満足を得るのは難しい。顧客が想像もしていなかった要素を盛り込み、期待を大きく上回る性能を実現する。メーカーとしての顧客を驚かせるものづくりをしたい」。英ダイソンの創業者であるジェームズ・ダイソン会長はこう話す。

 「驚かせるものづくり」を実現する同社の商品開発方針はユニークだ。「デザイナー・エンジニア」と呼ばれる商品開発者は、技術だけでなくデザインも担当し、機能とデザインを密接にリンクさせながら開発を進める。研究開発には売り上げの12~16%という医薬品メーカー並みの投資を行う。頻繁な商品改定は行わず、時間をかけて機能、性能面で既存商品と明確な差異化を打ち出した商品のみを市場に出す。

 こうした方針を貫けるのは、同社が株式を公開していないことも影響している。「株主からのプレッシャーがないので、四半期ごとに新しい商品を出して売り上げを伸ばす必要がない。利益にとらわれず、株主対応に時間をとられずに、開発に集中できる」

 「ものづくりの会社」として品質管理にもこだわる。1993年の創業直後から、シックスシグマを導入。シックスシグマの元祖である米モトローラから直々に手法を学んだ。マレーシア工場のテストセンターでは150の社員が堅牢性のテストに携わり、階段の上から200回掃除機を落とすなどして、市場に出る前の商品の損傷をチェックする。「テストを徹底することで、開発で冒険できるようになる。従来の常識を覆すような商品でも、安全性が確保できていれば自信をもって市場に出せるからだ」

 ものづくりへの徹底したこだわりを熱く語るダイソン会長は、一方でそれを「売る」ことには重きを置いていないかのような発言を織り交ぜる。「(営業やマーケティングなどの)市場開発活動に投資するより、研究開発への投資を優先する。顧客もそのほうを喜ぶだろう。時間がかかるかもしれないが。最終的には収益性の高い会社になる」
 
 「ブランド力があればすべてうまくいくとは思わない。他社は同じような技術で戦っていたが、私たちは全く異なるテクノロジーで勝負している。われわれはマーケティング会社ではない。ものづくりの会社だ」

 しかしこれらの発言から、ダイソンが営業やマーケティングに力を入れていないと見るのは早計だ。