米シックス・アパートのクリス・アルデン氏
米シックス・アパートのクリス・アルデン氏
[画像のクリックで拡大表示]

 米シックス・アパートで、ブログ・ソフト「Movable Type」を担当する執行副社長兼ジェネラルマネジャーのクリス・アルデン氏に、現在のインターネットの動向や、自社の製品戦略について聞いた。同氏は、IT雑誌「Red Herring」を発行する米Red Herring Communicationsの共同創立者兼CEO(最高経営責任者)で、9月初めまではニュースリーダー・サービスを展開していた米Rojo NetworksのCEOを務めていた(米シックス・アパートが9月に同社を買収)。

 ――ここ1年ほど「Web2.0」というキーワードが世間を賑わせている。今後インターネットはどんな方向に向かうと見ているか。

 今、個人的に面白いと思っていることは二つある。

 一つは、企業へのインパクトだ。Web2.0は一般消費者向けのインターネットで起きた現象だ。そもそもインターネット自体、始まったときには一般消費者、もしくは個人のものだったが、その後5年ほど経つと会社の中に入ってくるようになった。これと同じことがWeb2.0でも起きるだろう。

 Web2.0の技術が、企業情報システムの中に取り入れられることによって、会社組織だけでなく、ビジネスそのもののあり方が変わってくる。Movable Typeがビジネスブログの世界に入ってきたのも、こういった現象の一端を示すものだ。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)もWikiも、今後さらに企業で使われるようになる。コミュニティ的な要素を持つ技術が、職場の環境や、社内でのコミュニケーション、それに仕事のスタイルを変えていく。

 もう一つは、従来型の「中央集権型」から「分散型」への移行だ。個人的な考えだが、Web0.5、Web1.0、Web2.0という三つのフェーズに分けてもいいかもしれない。

 Web0.5というのは、完全な中央集権型の構造だ。マスコミ、メディアを例に取ると、米ニューヨークタイムズなどの従来型メディアが、ネットで情報を発信するような場合を指している。Web1.0というのは、特定の1企業ではなく複数の利用者が、特定の“場”に情報を発信するようのものだ。「スラッシュドット」(日本版はこちら)のようなメディアを考えるとよいだろう。今来ているWeb2.0は、今ではネット上に散在している個人が個々に情報を発信する。ブログを使った情報配信などはこの典型と言える。

 この流れは、ネット上のビジネス(コマース)にも広がってきている。コマース分野のパイオニアである米アマゾン・ドット・コムは、自らが商品を仕入れて消費者に販売する中央集権的なスタイルだった。その後、個人同士で商品をやり取りする場を提供する米イーベイが登場した。

 アマゾンやイーベイのサービスは、いずれも1社で完結している。今後コマースの世界にWeb2.0の波が来れば、個人同士が直接取引できる世界が誕生するだろう。しかし、ものを売りたい人間と買いたい人間が、ネットで出会うことができただけで、ビジネスの基盤が整うわけではない。例えば、決済機能や評判(レピュテーション)の管理機能などが必要になる。これまではアマゾンやイーベイが、これらの機能を提供していたわけだが、個人が直接取引するようになると、これらの企業の機能を使うことができない。

 この問題を解決するものとして、個人間の商取引に必要な機能だけに特化して、これを提供する会社が登場し始めている。レピュテーション管理サービスの米Rapleafや、産業広告などを集約して提供する米edgeio、製品レビュー情報を提供する米Yelpなどがそうだ。コマースの世界で専門化が進んでいるということもできるだろう。

 こういった動きは、必ずしもインターネットだけの話ではない。過去、ほかの産業でも普通に起こっていたことだ。例えば100年前には、自動車会社は車の部品のすべてを1社で作っていた。だが今では、大半の部品は部品メーカーが製造する分業体制に変わっている。ネットで今起こっているのは、これと同じことだ。

――シックス・アパートで何に取り組む予定か。

 ブログは、今の形が最終形態ではない。どんどん変わっていく。第一世代のブログというのは、個人による情報発信を重視したプラットフォームだったが、次世代のブログは、より双方向のコミュニケーションを重視したものになる。

 詳細はまだ話せないが、今後は、Movable Typeを社内のプロジェクト・マネジメントや、社員間のコミュニケーションに使えるように機能を強化していく。これまでブログは一人が一つの意見を発するという形態だったが、ビジネスブログでは、複数の人が情報を伝える必要がある。例えば、複数の人が一つのブログを共有し、これを統合した形で情報を発信する、読む手はさまざまなところから発信されるブログの情報を集約して読めるようにする、といったことが求められるのではないか。

 私自身、2002年からMovable Typeを使って情報を発信してきた。Movable Typeのファンだといっても良い。当時私は「Red Herring」という雑誌の編集をしていて、技術やメディアに興味があったのだが、ブログを始めたときには「ブログは革命的なコミュニケーション・ツール」だと直感した。我々のワークスタイルを変えていくことになると感じた。シックス・アパートは今、世界的なインターネット会社になろうとしている。これからもさらに伸びていけると考える。

 現在のところ、競合するベンダーはないといっていい。いくつかのCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)ベンダーが製品の中にブログ機能を搭載しているが、ユーザーは必ずしも喜んでいない。巨大なシステムの中にブログの機能が組み込まれていても、使い勝手はよくない。ブログは「すばやく」、「柔軟」であることが求められる。巨大なシステムの中では機能しないし、全体の一貫性を損なわせると思う。

――米マイクロソフトのWindows Liveや米グーグルは脅威ではないのか。

 あくまで個人的な考えだが、米マイクロソフトや米グーグルは脅威だとは感じない。Web2.0の時代で勝ち抜くには、企業には素早く動くことが求められる。今は“会社が小さい”こそが重要なのだ。

 20年前には、確かにマイクロソフトは小さくて素早い会社だったが、現在はどうだろうか。グーグルの社内には、数人単位の小グループからなる多くの開発チームがある。小回りの効く組織なのは確かだろう。だが小さいグループがたくさんあることと、会社が小さくて素早いことは違う。

 たとえば、グーグルで成功したのは本腰を入れてリソースを投入したものだけだ。グーグルは、メールやインスタント・メッセンジャーやSNSなどのサービスを提供しているが、いずれの分野でもリーダーというわけではない。

 それから、シックス・アパートはブログにフォーカスしている。これも素早く動くためには大切なことだ。