マイケル・ジョーンズ チーフテクノロジスト(左)とブルーノ・ボーデン氏(右)
マイケル・ジョーンズ チーフテクノロジスト(左)とブルーノ・ボーデン氏(右)
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Googleマップ日本語版は9月26日にリニューアル。地図情報と航空写真の同時表示などの新しい機能を加えた
Googleマップ日本語版は9月26日にリニューアル。地図情報と航空写真の同時表示などの新しい機能を加えた
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9月14日に公開となったGoogle Earth日本語版。マウス操作で自由に動かし、3Dグラフィックで描かれた地球を見ることができる
9月14日に公開となったGoogle Earth日本語版。マウス操作で自由に動かし、3Dグラフィックで描かれた地球を見ることができる
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 米グーグルは地図表示ソフトGoogle Earthの日本語版を2006年9月14日に発表。続いて9月26日にはWeb上の地図サービスGoogleマップをリニューアルした。グーグルが日本向けの地図サービスを強化し続ける狙いはどこにあるのか。Googleの地図サービスを統括するマイケル・ジョーンズ チーフテクノロジストとGoogle Earthの日本語化を手がけたブルーノ・ボーデン氏に地図サービスの現状と今後の可能性を聞いた。

■2年前にキーホールがGoogleの傘下に入った経緯を教えてください。

マイケル・ジョーンズ氏(以下M): 私はGoogle Earthの元となる地図ソフト「キーホール」を作成していたキーホール社のCTOでした。実は、Googleの創業者であるラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンは、キーホールのユーザーでした。ソフトをインストールし、地球を飛び回り、気に入ってくれたのです。ラリーは、この地球儀上に情報を加えることで、世界中をつなぐコミュニケーションツールになると考えました。

 キーホール側としても、単に地球の地図を見せるだけでなく、もっと便利に改良するアイデアがありました。地球儀にレストランやホテルといったあらゆる地域の情報を加えていくのです。Googleもそのアイデアに同意し、Googleがキーホールを取得したのです。互いに求め合う、完璧な結婚だったといえます。それ以来、さまざまな言語に対応を進め、膨大な地域情報を追加し続けています。

 数多くのユーザーに高速な地図表示を提供できるのは、キーホールの技術というよりは、Googleが持つインフラによるものです。Googleは強力な処理能力を持つサーバーを世界各国に配備しており、高速なネットワークをもっています。大量のデータを記録するデータセンターもあります。これらの強力なインフラを使って多くの人にサービスを提供できることが、Googleと組んだ理由のひとつです。

■GoogleマップやEarthの利用方法にはどのような広がりが出てきていますか

M: 地図サービスは単に地図を表示するだけでなく、情報を伝達するツールになりつつあります。湾岸戦争が起きたとき、多くの人々はイラクで何が起きているかを知りたいと感じていました。そこで、我々はイラクのニュースや情報をソフト上の地図の上に載せてみたのです。その後、インドネシアの津波が起きたときにも、関連情報をGoogle Earthの地図上に掲載しました。これを見たラリー・ペイジは、もっと必要とする人に向けて情報を提供し、人の役に立たせるべきだと我々に提案したのです。

 その数カ月後、ハリケーン「カトリーナ」が米国を襲いました。Earthのチームは緊急事態を目の前にして、何かをするべきだと考えました。そこで、我々が入手できるだけの情報を手に入れて、「Google カトリーナ ヘルプチーム」を結成しました。毎日Google Earthの画像をアップデートしたほか、Googleマップの特別版も作りました。通常の「マップ」「航空写真」のボタンの隣に「カトリーナ」ボタンを付けたのです。それを押すと、洪水の状況を表示するようにして、自分の家や友人の家に洪水が到達しているかどうか、分かるようにしました。

 これまで米国で主に軍用に使われていた地図情報をまとめている政府機関からも一部の情報提供を受けられるようになりました。地図上で、どこの橋が壊れているのか、どこの道路や建物が安全かといった情報を掲載することで、避難所にいる人たちに情報を提供し、警察、消防などの公共サービス機関を助けることにもつながるはずです。

 これまでは、テレビや新聞が世界情勢を伝えてきましたが、Google Earthのような地図サービスも情報を伝えるためのツールとして浸透するでしょう。情報の配信元はGoogleではなく、専門家のリポーターであり、国の専門機関などです。ただ、これまでと異なるのは最新情報を伝える媒体が紙やテレビではなく「地球」なのです。

■今回のGoogleマップのリニューアルではどのような機能を追加しましたか。また、地図サービスを日本語化をする上で困難だった点は。

M: Googleマップの日本語版は2005年に開始しましたが、より使いやすく改善したいと考えていました。今回の更新で多くの地域情報を追加し、道路、有名なビル、ホテルなどの名称を地図上に表示するようにしました。コンビニや信号の位置もアイコンで表示します。航空写真を見ながら、これらの地図情報を同時に表示できるようにもしました。Google Earthでもレストランなどさまざまな日本の地域情報を追加しています。

ブルーノ・ボーデン氏(以下B): Google Earthの日本語化で一番大変だったのは、地図データのほか会社やレストランなどの地域情報をどう手に入れるかということです。地図データを所有している会社と交渉し、データ提供を受けるための契約をしたのですが、それは膨大な時間と予算がかかりました。メニューなどユーザーインタフェースを日本語対応させただけでなく、細かい点では米国ではフィートやマイルを使う長さの単位も、メートルに変更しました。

■日本人にとって分かりやすい地図を作るのは大変なのではないでしょうか。

M: 我々にとって日本人がどんな地図を使いやすいと感じるかは分かりづらい面があります。そこで日本支社の担当チームとの連携を重視しています。私たちが、これがいいだろうと推測するのではなく、日本の担当者がこれがいいと指摘し、改善していくのです。

B: Googleのミッションは「世界中の情報を整理して、便利に使えるようにする」こと。我々が成功するためには、人々に好まれるサービスを作り上げる必要があります。日本人にとって不便なものであれば、使ってもらえません。我々は便利なものを提供する、というのが原則で、ビジネス優先ではありません。

M: 世界中のどの地域の人々にとっても、便利なものを提供することが重要です。Google Earthでは、自分の家の住所を入力すると、家の写真が表示されます。世界中の誰が調べてもすべての家にたどり着けるようにしておかなければなりません。すべての家、すべてのレストラン、すべての国、すべての言語が地図上に載っているべきなのです。これが、我々がGoogleに合流したときにラリー・ペイジ、サーゲイ・ブリンとまず話したことです。

■すべての情報をGoogleが持つということに恐れを抱く人もいます。

M: 前提として、我々の情報は既に公開されているもので、それを業者から購入して地図サービスに使っているのです。Google Earthは新しいものなので、面白いと感じると同時に恐れを感じる人がいるかもしれません。しかし、利用法が浸透し、さまざまなビジネスに利用されるようになれば、Googleの検索機能が浸透していったように自然と消えていくでしょう。

 従来、衛星写真や航空写真は軍事用途のものが多く、利用するには高い料金を支払わねばなりませんでした。10年ほど前から、衛星写真は農業など民間産業の発展にも役立つという認識が広がってきました。米国だけでなく、英国やフランス、ドイツなどさまざまな国で衛星写真が民間で利用されるようになっています。今後、ますます生活や仕事に身近になっていき、人々はその利用に慣れていくでしょう。

■今後のGoogleの地図サービスでは何を目指していくのでしょうか。

M: 現状でGoogle Earthは6言語に対応していますが、対応言語を増やしていきます。Googleの検索機能は100以上の言語がありますから、すべて対応させるのは大変です。もしかしたら、一生かかるかもしれませんが、すべての国の人に提供したいと考えています。同時に地域の情報をたくさん追加していくことで、ビジネスや生活に活用してもらいたい。子供たちにも、地球儀上を飛んでもらい、いろんなことを学んでほしい。

 もうひとつの可能性が、コミュニティーツールとしての機能です。ユーザーが地域情報をGoogle Earthの地球儀の上に書き込んでいき、世界中の人がそれを見ることができる。例えば、この道路は舗装中だとか、この橋はもうなくなっている、といったフィードバックがあれば、地図を改善していける。誰でも自分の周囲や興味のあることでは、専門家になり得るのです。レストランやホテルで個人が体験した経験を地図上に書き込むこともできるようになるでしょう。将来的には経路検索の機能も追加したいですね。