ソニーが2006年9月29日、発火・発煙の可能性があるバッテリーパックの、全世界でのメーカーに対する自主回収を発表したことで、関係メーカー各社が対応に揺れている。米デルと米アップルコンピュータは、既に一般消費者に対する自主回収を発表しており、中国のレノボグループも、ソニーの発表と前後して自主回収することを表明した。問題となったソニーエナジー・デバイス製リチウムイオンバッテリーをめぐる主な発火事故や回収発表の経緯は表のとおり。
このノートパソコン用リチウムイオンバッテリーパック、厳密に言えばバッテリーセル(バッテリーパックの中に入っている電池)を採用しているメーカーはほかにもある。国内でいえば、シャープ、東芝、日本ヒューレット・パッカード(HP)、富士通の4社だ。これら各社はこれまで、いずれも設計やシステム構成の違いから安全性に問題はないとして、この件でバッテリーパックの回収・交換を実施する予定はないと述べていた。
実はレノボグループも同じく安全上の問題はないとコメントしていた。しかし、そのレノボグループのバッテリーで発煙問題が起こったことから、ソニーでは「消費者の不安を除く意味でも、事故の危険に関わらず問題となったバッテリーセルを採用するバッテリーパックは、すべて回収するつもりで各メーカーに打診している」(広報)と決めたという。これを受けて、各メーカーがどのように対応を改めるのか注目される。ちなみに、NECも過去にオプションでソニー製バッテリーを選べる時期があったが、「今回問題になったバッテリーとは異なる」(NEC広報)という。
今回の自主交換プログラムの対象製品は、デルが約410万個、アップルコンピュータが約180万個となっており、両者の交換分でソニーが負担する費用は合計200億~300億円とソニーは見込んでいる。ソニー製バッテリーの納入先は全世界でデルが1位、アップルコンピュータが2位。レノボグループの対象製品が約50万6000個なので、これにその他のメーカーの対象製品が加わったとしても、デルとアップルコンピュータの回収数を大幅に上回ることはないと予想される。
2006年9月29日、午後4時時点での各社の対応は以下の通り
■シャープ:「現在、情報を収集しており、対応については未定」(同社広報)。
■日本ヒューレット・パッカード:「バッテリーセルは米国本社が一括して納入しており、国内にはまだ何の情報も入っていない」(同社広報)。
■東芝:ソニーが自主交換プログラムで対象にしているバッテリーの交換を実施するかどうかは未定。
なお、東芝は2006年9月19日に、ソニー製リチウムイオンバッテリーを採用した一部のノートで、充電または放電できなくなる可能性があるとして無償交換を実施している。ただし、問題となったのはバッテリーセルではなく、バッテリーの製造時に、途中から設計時とは違う絶縁紙を使用したことによる。なお、この問題で発火や発煙が起こる危険はないとのこと。
■富士通:「ソニーからの発表があった以上、何らかの動きを開始せざるをえない。本日中にはホームページで方針を伝えたい」(同社広報)。
●ソニー製リチウムイオン電池をめぐる主な出来事 |
時期 | 内容 |
6月21日 | 日本のホテルでデルのノートパソコンが発火したことが英国のインターネットメディアで報じられる |
8月14日(現地時間) | 米デルがソニー製リチウムイオン電池を使用したバッテリー410万個の回収を発表 |
8月24日(現地時間) | 米アップルコンピュータがソニー製リチウムイオン電池を使用したバッテリー180万個の回収を発表 |
8月24日 | 経済産業省が電池・蓄電技術の専門家による検討委員会を設置 |
9月1日 | NEC、富士通、東芝、日立製作所、ソニーがソニー製リチウムイオン電池を使用した自社ノートパソコン用バッテリーについて安全性が確認できたとコメントを発表 |
9月16日(現地時間) | 米ロサンゼルス国際空港でThinkPad T43に搭載していたソニー製リチウムイオンバッテリーから発煙する事故が発生 |
9月19日 | 東芝が動作の不具合を理由にソニー製リチウムイオン電池を使用したバッテリー34万個の無償交換を発表* |
9月28日(米国時間) | 中国のレノボグループがソニー製リチウムイオン電池を使用したノートパソコン用バッテリー約52万6000個の無償交換を発表 |
9月29日 | ソニーがソニーエナジー・デバイス製リチウムイオン電池を採用したノートパソコン用バッテリーを全世界で自主交換すると発表 |
*パソコンを使用中に充電・放電ができなくなる問題に対処するための無償交換で、発熱や発火に至る恐れはない |