写真1 BBブロードキャストを説明するTVバンクの川原洋・システム統括部統括部長(右)と中川具隆・取締役COO(左)
写真1 BBブロードキャストを説明するTVバンクの川原洋・システム統括部統括部長(右)と中川具隆・取締役COO(左)
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写真2 9月22日に実施した「EXILE」のライブの動画配信時のトラフィック・データ
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 ソフトバンク・グループで動画配信を手がけるTVバンクは9月26日,数万規模のユーザーに動画を同時配信できる新システム「BBブロードキャスト」を開発したと発表した。

 BBブロードキャストは,ピア・ツー・ピア技術を使う「オーバーレイ・マルチキャスト」方式を採用。ユーザーは専用のクライアント・ソフトをパソコンにインストール。このクライアント・ソフト間で動画データを相互に送信し合う。

 通常使われる動画配信方式には(1)ユニキャストと,(2)IPマルチキャストがある。(1)のユニキャストの場合,サーバーとユーザーを1対1で接続して動画コンテンツを配信するため,ユーザー数の増加に合わせてトラフィックが増加してしまう。配信側の送出トラフィックが増えるのはもちろん,インターネット全体にかかるトラフィック量の総和も大きくなる。

 (2)のIPマルチキャストは,ルーターでパケットを複製して転送するためトラフィック量を抑えられる。しかしIPマルチキャスト対応ルーターを使った閉域網を構築しなければならないため,設備コストが高くつく。また,複数のプロバイダ網をまたいで動画配信サービスを提供することができない。

 オーバーレイ・マルチキャストはユーザー側に専用ソフトをインストールすることで,サーバーからの送出トラフィックも,ネットワーク全体にかかるトラフィック量も抑えることができる。TVバンクの川原洋・システム統括部統括部長は「ユニキャストとIPマルチキャストの“いいとこ取り”の方式」と説明した(写真1)。

EXILEのライブ動画配信で送出トラフィックを78%削減

 実はTVバンクでは,2005年12月のサービス開始当初から,BBブロードキャストを試験利用してきた。これまで詳細を明かさなかったのは,「運用面,セキュリティ面でビジネスに使えるかどうかを検証していたため」(TVバンクの中川具隆・取締役COO)。ラックのセキュリティ監査をクリアしたことと,大規模な実証試験で効果が確認できたので公開に至ったという。

 中川取締役COOが言う大規模な実証実験とは,9月22日に配信した人気ダンスボーカルユニット「EXILE」のライブを指す。768kビット/秒で2時間にわたるライブ動画配信をBBブロードキャストを使って実施。同時視聴者数は2万5302人,総視聴者数は実に4万6904人に上った。その結果,サーバーの送出トラフィックを,ユニキャスト利用時に比べて78%削減することに成功したという(写真2)。

 中川取締役COOは,「動画データを送出する際の回線費用(トランジット費用)は非常に高価。通常のユニキャスト方式では100kビット/秒で100万ユーザー,1.5Mビット/秒だと1000ユーザーに同時に配信するのもコスト的に厳しい」と説明。「BBブロードキャストなら送出トラフィックを格段に抑えられる」と力説した。100万ユーザーという数値を地上波放送の視聴率に置き換えると,わずか2%にしかならない。動画配信事業者は,ユーザーが増えれば増えるほど,配信コストがかさむジレンマを抱えている。P2Pを使う新方式で,こうしたジレンマを解消しようというわけだ。

 P2Pを使う方式には,もう一つメリットがある。送信サーバーの出口のトラフィックだけでなく,ネットワーク全体にかかるトラフィックの負荷が下がることだ。2006年初頭にUSENの無料動画配信サービス「GyaO」のトラフィックの急増を受けて勃発した「インフラただ乗り論」の解決策にもなりうる。

 TVバンクでは今後も,福岡ソフトバンクホークスの野球中継などでBBブロードキャストを使う予定。また「他の事業者への提供も検討中」(中川取締役COO)だという。