写真1 米Epic Gamesのビジネスディベロップメント担当副社長Jay Wilbur氏
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写真2 米Epic GamesのCEO Tim Sweeney氏
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写真3 Unreal Editorのデモを行うSweeney氏
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写真4 パーティクル・エディタのデモを行うSweeney氏
写真4 パーティクル・エディタのデモを行うSweeney氏
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写真5 パネル・ディスカッションの様子。左から順にIGDA日本代表 新 清士氏,米Epic GamesのCEO Tim Sweeney氏,同ビジネスディベロップメント担当副社長Jay Wilbur氏
写真5 パネル・ディスカッションの様子。左から順にIGDA日本代表 新 清士氏,米Epic GamesのCEO Tim Sweeney氏,同ビジネスディベロップメント担当副社長Jay Wilbur氏
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 9月22日に開催された「東京ゲームショウ・フォーラム」の開発者向けセッション「CEDECプレミアム」で,米Epic GamesのCEO Tim Sweeney氏とビジネスディベロップメント担当副社長Jay Wilbur氏が次世代ゲーム機向けのゲーム開発について講演した。Epic Gamesは,シューティング・ゲーム「Unreal Tournament」シリーズなどを開発するほか,数多くのゲームで使われているゲーム開発フレームワーク「Unreal Engine」の開発元としても有名である。ソニー・コンピュータエンタテインメントも,2005年7月にプレイステーション3(PS3)用Unreal Engineのライセンス契約を締結している。

アウトソーシングとミドルウエアの活用でリスクを低減

 最初に登壇したJay Wilbur氏は,ゲーム開発はもともと「大変リスクの高いビジネス」であるが,PS3やXbox 360などの次世代コンソールの登場によってこのリスクがさらに増大すると示唆。次世代コンソール向けゲーム開発においてリスクを軽減する方法を論じた。

 Wilbur氏によれば,プレイステーション2など従来のコンソール向けゲームの平均的な開発予算は200万~600万ドルであったのに対し,次世代コンソールでは800万~2000万ドルに達しているという。その一方で,米国におけるゲームの価格は,現在の49~59ドルから,35ドル程度にまで下がると見られている。仮にプロジェクトの予算が1200万ドル,ゲームの価格が39ドルとして,約30万本以上売れないと採算がとれない計算だ。

 ところが,米NPD Groupの調査によれば,米国で2005年4月30日~2006年5月1日に出荷されたコンソール向けゲーム586タイトルのうち,30万本以上売れたのは70本しかない。さらに,ヒットしたとみなせる,75万本以上のセールスを記録したゲームはこのうち23本と,約4%に過ぎないという。

 Wilbur氏は,次世代コンソール向けゲーム開発におけるリスク要因を大きく2つに分けて議論する。リスク要因の1つは,ゲーム・キャラクタのデザインをはじめとする「コンテンツ」の品質に対する要求が高まり,それによって作成に必要なコストが増大するというもの。例えば,2004年に出荷された「Unreal Tournament 2004」のあるキャラクタ(Iron Guard)は3000ポリゴン。対して,2007年第2~第3四半期に出荷予定の「Unreal Tournament 2007」では,同じキャラクタについて,ライトマップなどの計算の基となるHigh Polygon Modelが約400万ポリゴン,実際に描画に使用するLow Polygon Modelでも8000ポリゴンに達するという。またテクスチャも,1024×1024ピクセルから2048×2048ピクセルへと解像度が上がっている。こうした高品質のコンテンツを作成するために,ゲーム・ベンダーの平均的な開発チームの規模はPS2やXboxで平均30~40人だったのが,PS3/Xbox 360では60~80人に膨れ上がっているという。

 このようなコンテンツ作成コストの増大を抑える方法として,Wilbur氏は,社内のチームをコンパクトに保ち,適切にアウトソーシングをするのが効果的だと主張する。「アウトソーシングでクオリティが低下するというのは迷信だ。適切なアウトソーシング先を選ぶことで,品質を保ったままコストを下げられる」(同氏)。実際,Epic Gamesは中国にEpic Games Chinaを設立し,コンセプト・アートを渡してポリゴン・モデルを作成してもらう,という手をとっている。米国の人的コストの平均が1人月当り9000ドル,欧州と日本で8500ドルであるのに対し,中国では4000ドル以下で済むという。

 2つめのリスク要因は,開発に要求される技術レベルが高くなるために,開発期間が長くなり,コストもかかるというもの。これについては,同社のUnreal Engineをはじめとするミドルウエアを導入するのが有効とする。Wilbur氏は,「ミドルウエア自体の学習に多少の時間がかかるものの,一から技術を習得するよりも短期間で高い生産性を発揮できる段階に到達する。十分にテストされたコードを利用できる点もメリットだ」と説明。Epic Games自身も,自社製のUnreal Engineに加えていくつかのミドルウエアを利用しているという。

PS4が出るころには開発チームは1000人になる?

 セッションの後半は,Tim Sweeney氏がEpic Gamesで使用している開発支援ツールを紹介。(1)3Dモデリング・ツールで作成したモデルなどを組み合わせて実際のゲーム・シーンをリアルタイムに編集・プレビューできるUnreal Editor,(2)パーティクル・エフェクトを実際に見ながら作成できるパーティクル・エディタ,(3)ゲーム中のスクリプトをビジュアルに編集できるスクリプト・エディタ,などのデモを行った。

 Sweeney氏は,「Epic Gamesの開発チームは,例えば2006年に出荷予定の『Gears of War』で30人と,業界平均の2分の1~3分の1の人数で構成されている。こうした小さいチームで高いクオリティのゲームを作れる最大の理由は,生産性の高いツールを自社開発して使っているため」という。「良いツール・セットは,2倍の人数の開発チームよりも価値がある」(同氏)。

 Sweeney氏は,生産性の高いツールを導入する必要性をこう強調する。「16年前にEpic Gamesを設立したときには,1人でゲームを開発していた。現在,ゲーム業界では100人近くの開発者が2年間かけてゲームを開発している。将来,プレイステーション4が出荷されるころには,ゲームの複雑さは今の10倍になっているかもしれない。ではそのときに,1000人の開発チームを作るというのか。そんなことはあり得ない」。

Cellプログラミングのコストは昔の5倍

 Wilbur,Sweeney両氏の講演後には,IGDA日本代表 新 清士氏の司会によるパネル・ディスカッションが催された。新氏の「PS3,Xbox 360ともマルチコア・プロセッサを搭載しているが,どう思うか」との質問に対し,Sweeney氏は「マルチコアはプロセッサの性能を向上させるための現実的な解だと思う。ただ,PS3が搭載するCellプロセッサのプログラミングは,従来のシングルスレッド・プログラミングの5倍程度コストがかかる。一般の開発者が能力を使い切ることは難しいだろう」とする。とはいえ,「ゲーム・コンソールの寿命は5年間。今は難しくても,将来的には能力を十分活用できるようになるはず」(同氏)と楽観的な見通しも示した。

 また,日本と海外の開発スタイルの違いについてSweeney氏は,「日本のゲーム開発は,アーケード・ゲームなども含めて長い歴史を持つ。これは,最近伸びが著しい韓国などとは大きく異なる点だ。ただ,こうした歴史の中で培われてきた開発プロセスには,Unreal Engineなどのミドルウエアを活用する最近のゲーム開発手法に適さない面もある」と分析。その点がミドルウエアの導入を阻んでいるのではと示唆した。

 Unreal Engineの効果的な導入の仕方については,「Unreal Engineは,数週間でとりあえず使えるようになるが,エキスパートになるには数カ月かかる。まずは,小さなチームを作ってエキスパートを育て,その後徐々に範囲を広げていくことを勧めたい。そうすれば,予測可能な(=リスクの少ない)状態で開発を進められる」(Sweeney氏)。