米フォレスター・リサーチのシャーリーン・リー プリンシパル・アナリスト
米フォレスター・リサーチのシャーリーン・リー プリンシパル・アナリスト
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 Web 2.0といえば、ブログにしてもSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)にしても、コンシューマ向けのサービスだと考えられがちである。しかしむしろ企業内において有効だ--。米フォレスター・リサーチでWeb 2.0など「ソーシャル・コンピューティング」のリサーチを担当しているプリンシパル・アナリストのシャーリーン・リー氏が本誌記者のインタビューに応じ、こう語った。

--いわゆるWeb 2.0と呼ばれる現象は、米国の企業にどのような影響を与えているか。
 一般にWeb 2.0はコンシューマのツールだと考えられがちだが、ブログは優れたナレッジ・マネジメント・システムとして使える。実際私も社内向けのブログを開設しているが、ファイアウォールの内側だけでも非常に多くのユーザーが見ている。例えば米マクドナルドは、社長が従業員向けのブログを運営している。旅行やレストランのデザイン、健康な食にむけてのストラテジなどの情報を掲載している。
 ほかの企業でも、入社すると電話番号、電子メール・アドレス、ノート・パソコンに加えて、ブログが与えられるというところもある。毎日アップデートすることが望まれている。それがナレッジ・マネジメント・システムとなり、検索可能になる。SNSを使えば共通の関心事を持つ従業員同士でグループを作ったり、プライバシのための機能を使ってプロジェクト管理に使ったりできる。
 こういったことはコンシューマの世界でも実現できるが、企業内システムの方がよりうまく機能する。発言者が誰なのかがわかるし、どのように振る舞うかも見当がつく。フレームやスパムなどの懸念もない。企業の秘密情報が漏れる心配も少ない。

--現在のところどれくらいの企業が、Web 2.0の技術を使っているのか
 直接そのことを示す数字はないが、13%のマーケティング担当者がブログをマーケティング・チャネルとして使っている。38%は今後1年以内に利用する計画があるという状況だ。まだ新しい技術であり、大半の企業で使われているという状況ではない。
 ただ、企業内で使うというユーザーはこれから増えてくる。実際、米シックス・アパート社によれば、対象とする市場にもよるが、半分から2/3のユーザーが企業内部で使うために製品を購入している。確かに企業内向けに実装する方がポリシーの設定などは簡単だが、そこでは技術が問題になっているわけではない。従業員同士のコミュニケーションをどのようにやっていくべきなのかを考えるべきだ。
 これは、顧客との関係においても同じだ。企業が定期的に情報を顧客向けに発信したいというだけなら、ブログは必要ない。しかし、何に顧客が関心を抱いているか知りたいのであれば、ディスカッション・ボード(掲示板)を置くべきだ。ユーザーの声を聞きたい、あるいはユーザー同士のコミュニティを作りたいというなら、それ相応の技術を使えばよい。

--具体的にはどのような企業がブログを使っているのか
 例えばデル。最近バッテリなどで問題となって、顧客の信頼が失われている状況にある。ブログなどの批判の声を見ても、デルが顧客の声を聞いていないという評判となった。
 そこで彼らはブログを始めた。最初はマーケティング目的だったが、顧客はそのようなものは見たくない。そこですぐに顧客からの声を吸い上げるための仕組みとしてブログを利用し始めた。そこで顧客との関係が生まれることにより、顧客からの信頼を回復することにつながった。

--集合知(Wisdom of crowds)やロングテールは企業システムでも有効か
 集合知に関してはイエス。集合知は結局、そこにいる人々が重要。例えば私がソーシャル・サーチをする際に、技術に詳しい人々のグループと、女友だちのグループは分けて考える。ショッピングの質問は前者にはしないし、技術に関する質問を後者のグループでしたってしょうがない。
 だがその特性ゆえに、企業ではうまく働く面がある。企業内であれば、だれがグループなのかがわかるからだ。どの人間の意見がどれくらい正しいかを推定できるというのは大きい。
 ロングテールは、ディジタル化した情報になっていなければ有効に働かない。丹念に情報を蓄積する仕組みを実現することが問題となる。