「UML(統一モデリング言語)2.0のドキュメントをすべて読んだ人はいますか?」。9月14~15日に東京で開催されたモデリング・フォーラム2006の基調講演で、イバー・ヤコブソン氏は壇上からこう尋ねた。同氏はUMLのオリジナルの作成者の一人で、特にユースケースを考案したことで知られる。現在はシンガポールや韓国、中国、米国、スウェーデンなど7カ国に自らの会社「イバー・ヤコブソン・インターナショナル」を設立している。

 上記の問いかけに、会場の一人が手を挙げた。「何と、世界の不思議だ」とヤコブソン氏は言い、会場の笑いを誘った。「(UMLの最新版である)UML2.0は素晴らしい内容だが、あまりにドキュメントが厚すぎて、軽く900ページを超える。これはツール・ベンダーによるツール・ペンダーのためのものだ。UMLの利用者のことを考慮していない」。

 UMLをモデリングに使うべきかどうかに関しては、「確実に、絶対に、決定的に(Absolutely、Positively、Definitively)イエスだ」。問題は、UML2.0の仕様があまりに複雑なために、UMLでモデリングをする利用者にとって負担になっていることだ。「本を読めと言うこともできるが、もっと大切なのは実行に移せるようにすること。多くの場合、UMLを自分たちの流儀で間引く形で利用しているのが現状だ」。

 ヤコブソン氏は、「モデリングにより得られる価値の8割は、UML2.0の仕様の2割から得ることができる」と主張する。この考えのもと、同氏が取り組んでいるのが「エッシンシャルUML(Essential UML)」である。これは、使いやすさを意識してUML2.0の重要なコンセプトを抜き出し、それを“プラクティス”の形でまとめたものを指す。「手っ取り早く使うことができ、しかもほとんどのプロジェクトに適用できる」とヤコブソン氏は話す。

 エッセンシャルUMLが既存のUMLとは異なるのは、単なるモデリング言語ではなく、開発プロセスと一体化していることだ。ヤコブソン氏は、UP(統一プロセス)を基により使いやすくした「エッセンシャルUP」を提唱している。エッセンシャルUMLは、エッセンシャルUPと一体化する形で利用する。ちなみに同氏は、UPのオリジナル作成者の一人でもある。

 エッセンシャルUPでは、ソフト開発に必要なプラクティスをカードの形でまとめている。例えばユースケースに関して、成果物を示すカード(「ユースケース仕様」など)、作業(アクティビティ)を示すカード(「アクターとユースケースを見つける」など)、補完するカード(「アナリスト」)など20枚のカードがある。

 それぞれのカードは横5インチ、縦3インチ程度の大きさを想定しており、左半分に作業の流れの図を、右半分に簡単な説明を示すのが基本。加えて、それぞれのカードごとに2ページから4ページのガイドラインを示している。ガイドラインには、作業手順、作業を進める上でのヒント、陥りやすい間違い、参考書、UPの該当個所などを示している。

 開発プロセスの設計は、これらのカードを定められた場所(ヤコプソン氏は「ゲームボード」と呼ぶ)に置いていくことで進める。組織内の既存のプラクティスを洗い出す、その上でどの領域を強くするかを決める、といった作業を、ゲームボードとカードを使って実行していく。イバー・ヤコブソン・インターナショナルは、そのためのツールも提供している。

 「長々と記述するだけでは多くの人は読まないが、楽しければ読む。カードの形にしたのは、そのためだ。プロセスや言語の役割を果たすためにカードを使うのは、新しい手法ではないか。しかも、多くのプロジェクトで利用できる」とヤコブソン氏は話す。

 現在、スウェーデンの企業などで、この手法を評価しており、「顧客からは高い評価を得ている」。ヤコブソン氏は、「ぜひ自分自身のプラクティスをこの手法で作り、それを世界の人たちに公開してほしい」と、満員の会場に訴えた。