ブロードバンドの普及が世界をフラットにしている--。東京・品川で開催中の「Network Summit 2006」で講演したKDDIの伊藤泰彦・代表取締役員副社長は,講演の冒頭でブロードバンドの普及が企業活動を大きく変えていると説明した。一例が,米国の大手保険会社が設置している電話での問い合わせ窓口の体制。「電話口の担当者は,実はインドで対応していた」。こうした企業活動のフラット化は,今後のネットワーク・ビジネスのモデルにも,そのまま当てはまる。
ブロードバンドが普及した結果,事業者のバックボーンを流れるトラフィックの中身が大きく変わった。「今やトラフィックの8割が,ファイル交換ソフトなどピア・ツー・ピアのトラフィックだ」。一方,動画配信サイトの「You Tube」や「Google Video」が人気を集め,動画ストリーミングのトラフィックも急増。さらに,携帯電話のauでも全トラフィックの3分の1が,動画や画像データで占めている状況だ。この結果,トラフィックは猛烈な勢いで増加し続けている。
ところが,「トラフィック状況が変わっても,通信事業者やコンテンツ・プロバイダのビジネス・モデルは従来のまま」。ブロードバンドの普及でバックボーンの帯域はますます消費されていくにもかかわらず,ブロードバンドは定額・低料金が常識となっている。ユーザーから通信事業者へ,2次プロバイダから1次プロバイダへ,コンテンツ・プロバイダからインターネット接続事業者へ,広告主からコンテンツ・プロバイダへ,それぞれ支払われる料金は「利用されるトラフィックに対して,低額な水準に押さえられている」。
通信事業者であるKDDIにとっては,新たなネットワーク・ビジネスを構築すべき局面に立たされている。その救世主となる可能性を秘めているのが,次世代ネットワーク基盤であるNGN(次世代ネットワーク)だ。KDDIも「ウルトラ3G」と呼ぶNGNの構築を進めている。そのNGNが救世主となる可能性を秘めている理由は,「NGNではネットワークの自由度が広がり,そこから新しいビジネスが登場してくるからだ」。
伊藤副社長は,NGNであるウルトラ3Gをオープンなプラットフォームとして提供する考えを強調した。コンテンツ・プロバイダやインターネット接続事業者,他の通信事業者にとって利用しやすいプラットフォームにすることで,既存の課題を解決しながら同時に,新たなビジネス・チャンスを探るためだ。例えば,現在のサービス別,速度別の料金体系をサービスと一体化したバンドル料金や必要に応じて帯域を割り当てるオン・デマンド料金に変更。ブロードバンドの利用実態に即した課金が改善できる。また,VMO(仮想ネットワーク事業者)を提供しやすくなり,これがKDDIにとって新たな収益となる。
こうしたNGNを中核にした「分業連携型」のビジネス・モデルこそが,今後のKDDIが推し進めるネットワーク・ビジネスとなる。オープンなプラットフォームを提供しつつ,上位レイヤーのサービスなどは他の事業者と連携しながら提供していく手法だ。「部品が悪ければすぐに取り替える。そういう風にしていかなければならない」と,伊藤副社長は今後の見通しを述べた。