一時期,「先行きは不透明」とまで言われていた日本のゲーム業界だが,ここに来て明るい話題が相次いでいる。例えば,任天堂の携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」は爆発的な人気を誇っている。全世界における累計の出荷台数は,2006年6月末までの実績で2127万台にも上る。

 世界への展開で政府までもが注目する産業となったゲーム分野は,テクノロジー面でもビジネス面でも見るべきものは多い。野村総合研究所でコンテンツ/メディア産業を担当する北林 謙 情報・通信コンサルティング二部 主任コンサルタントに,ゲーム業界の動向について聞いた。

据え置き型行き詰まるもDSで裾野広がる

 ニンテンドーDSについては,これまでのゲーム機にはなかったタッチパッドを使った新しいゲームが登場したり,「えいご漬け」をはじめとした教育系ゲームが売れたりと,その幅が広がっている。「DSは新しい市場を切り開き,これまでゲーム機に触れてこなかったユーザー層も取り込んだ」と北林氏は見る。

 「先行き不透明,という見方は,据え置き型ゲーム機については確かに当てはまる面もある。だが,ゲーム業界全体について見てみると,携帯型ゲーム機や携帯電話用のゲームなど,ゲーム用のデバイスが増え,むしろ広がりが見える。依然として大きな産業であることは変わりない」(北林氏)。

 据え置き型ゲームについては,これから新機種が相次ぎ登場する。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は11月,次世代ゲーム機「プレイステーション 3(PS3)」を発売する。ライバルの任天堂も「Wii」を投入する予定だ。これら新機種の登場を控えて,マイクロソフトは9月8日,「Xbox 360」の廉価版を発表した。

 ただ北林氏は「据え置き型ゲーム機には,さまざまなネガティブな要素がある」と警鐘を鳴らす。一つは,ゲーム・ソフト開発分野に存在する構造的な問題だ。ゲーム機が実現できる映像,音声など性能が高まることで,開発コストが拡大している。「中小規模のゲーム会社は大手の参加に入るなど,大きな業界再編が起きつつある」(北林氏)という。大手グループに収れんすれば,コストなど規模の問題はある程度解決される。しかし肝心のゲーム性が弱いケースが多く,市場にマンネリ感が漂っている。開発コストをかけずともアイデアで勝負できる携帯型ゲーム機に注目が集まっている状況は,さもありなんといったところだろう。

技術進化の方向性は市場とユーザーのニーズで変わる

 そうした中で,北林氏が動向を注意して見ているのが,コンテンツを開発するゲーム開発会社の動きという。「例えば据え置き型ゲーム機について見ると,ゲーム開発会社からの注目を浴びているのは,明らかにPS3よりWii」(北林氏)。その理由は,コントローラに加速度センサーなどを搭載させ,新しいゲーム性にトライできる---つまりマンネリ感を払拭できそうな仕掛けがあるからだという。

 成熟化した分野は特に,技術を高度化したからといって市場に受け入れられるとは限らない。スクウェア・エニックスの和田洋一社長は「ゲーム業界が“確立された産業”に向けて第2ステージに入った」と主張する(和田社長のインタビュー記事)。そんなゲーム業界ならば,なおさらだろう。

 「少なくとも今の時点では,高度な処理性能はゲームの進化を大きく飛躍させるものではない。ニンテンドーDSが売れているのは,2つ画面を用意したことや,タッチスクリーンによる新しい操作感を提供していたこともある」(北林氏)。北林氏は高性能化を追求するSCEと,新しいゲーム性を見いだそうとする任天堂を引き合いに出しつつ,「ユーザーのニーズや市場の動向を見つつ,技術進化の方向性を見定めないと,道を大きく誤る」と指摘する。

IT技術者の活躍の場広がる

 ネットワークの普及により,ゲームでネットワークを利用したり,ネットワークの利用を前提としたゲームが広がりつつある。「いわゆる情報システムの構築ノウハウが必要なので,IT技術者のニーズが高まりつつある」と北林氏は見る。「特に様々なゲームを展開しなければならない大手ゲーム会社では,IT技術者は足りない状況にあるはずだ」(北林氏)。