auショップの接客コンテスト「au CS AWARDS 2006」の運用を担当する、KDDIの天野悦司au営業本部au営業推進部営業推進グループ主任 [画像のクリックで拡大表示]

 「大会のお題目は、ずばり、番号ポータビリティーによる競合他社からのチャーンイン(乗り換え)。NTTドコモやボーダフォン(ソフトバンク)の利用者がふらっとお店に立ち寄った状況を想定して、接客力を競っていただきました」(KDDIの天野悦司au営業本部au営業推進部営業推進グループ主任)

 「au(エーユー)」ブランドで携帯電話サービスを提供するKDDIは、10月24日から導入される番号ポータビリティー制度への準備に余念がない。8月末までに、全国に約2300店ある販売代理店「auショップ」のスタッフの接客力を、コンテスト形式で徹底的に鍛えた。

 KDDIは全国に9つの支社を持つ。接客コンテストは支社単位で開催し、予選となる県大会と本戦となる地区大会から成る。例えば九州支社では、まず福岡や長崎など県単位で個別に予選を実施。各県から1~数人の優秀者を選抜し、九州地区の本戦を十数人で競った。全国大会は開催せず、9つの支社で計12の本戦を開催した。

 各地で開催された本戦には、auショップの店長や同僚、他店のスタッフも駆けつける。本戦に出場したスタッフのモチベーションが高まるのはもちろん、多くの人が優れた暗黙知を共有できる。「他店の接客レベルを見たい、良い接客のやり方を見たい、とすごく良い刺激になっている。また、本戦出場の事前準備として、閉店後の夜8時、9時からショップのみんなでロールプレイを一生懸命やったりするので、優勝すると涙する者もいます。イントラネットによる情報共有も必要ですが、こうした感動を伴うリアルの場でのノウハウの共有はすごく大切」と天野主任は強調する。

接客マナー、ハートフルさ、セールストークの3点を評価


8月下旬に都内で開催された「au CS AWARDS 2006 東京大会」(1) [画像のクリックで拡大表示]

8月下旬に都内で開催された「au CS AWARDS 2006 東京大会」(2) [画像のクリックで拡大表示]

 店舗スタッフが予選や本戦で競うのは、au営業本部が定めた10通りのパターンのいずれかの顧客に対する接客のやり方である。顧客に扮した役者が、ステージ上に設置されたauショップのセットに来店し、決められた役柄を演じる。1人当たりの持ち時間は7分間。

 例えば、「ボーダフォンの家族割引を使っているけど、友だちからauならパケット代を定額にできると聞いてきた学生」に扮する役者が登場する。「1年前にボーイフレンドと一緒にボーダフォンの『ラブ定額』にしたけど、最近はあまり電話せずにメールが多い。また携帯電話で音楽を聞くことに興味が出てきた女性」「携帯電話でホームページを見たくてドコモにしたけど、翌月に高額の請求が来て困っている人」といった設定もあった。10通りあるテーマの多くは、料金面や機能面でのauの優位性をいかに訴えるかがカギとなる。

 役者が演じる顧客は積極的にはしゃべらないようにしている。「これは、ヒアリング力を重視しているからです。一般には、ドコモやボーダフォンの利用者はauのことをよく知りません。だから、ニーズをきちんと聞き出しながら、auの良いところをしっかりアピールする必要があります」と天野主任はその狙いを説明する。

 さらに、役者には会話の最後にためらいを見せるように指示してある。例えば「決裁権は主人になるので、今日は決められません」と言ってもらうのだ。しかし、ここでいかにしっかりと最後の一押しをできるかを評価する。

 本戦での具体的な評価ポイントは3つ。身だしなみや言葉づかいがきちんとできるかどうかといった「接客マナー」、押しつけではなく顧客の気持ちになった好感度の高い接客方法である「ハートフルさ」、さらに、ニーズをきちんと聞き出して適切な提案をする「セールストーク力」である。「それでしたらauにするといいですよ、とさりげなく最後に一押しできる人はすごい」と天野主任は言う。

地方では新規加入者の7~8割がauショップを利用

 KDDIの携帯電話の販売チャネルは、auショップ、他社携帯電話も扱う併売店、家電量販店の3通りに大別できる。このうち、KDDIの業績に最も大きな影響を及ぼすのはauショップだ。それゆえ、auショップの接客力を高める効果は大きい。

 関東では家電量販店での販売台数が多く、auショップで携帯電話を購入する新規加入者の比率は半分以下だ。しかし、全国平均では新規加入者の半分以上がauショップを利用しており、これが地方ともなると実に7~8割がauショップを使う。また、新規加入ではなく機種変更では8~9割がauショップを利用している。

 2006年8月末時点の携帯電話利用者数は、ドコモが5198万人、auが2417万人、ボーダフォンが1528万人である。実際は蓋を開けてみなければ分からないが、現在までのところ、auの携帯電話に変更したいと考える人の数の方が、auから他社に乗り替えたいと考える人よりも多いという意識調査結果がいくつも出ている。また、8月の純増数はドコモが約11万人だったのに対し、auは約25万人。いまのauに勢いがあるのは確かである。