写真 Network Summit 2006で講演を行う堺屋太一氏
写真 Network Summit 2006で講演を行う堺屋太一氏
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 日本は世界で最も情報に貧しい国家だ--。作家の堺屋太一氏は,東京・品川で開催中の「Network Summit 2006」で講演。ITのインフラが整う半面で,その上を流れる情報を活用するソフト力が伴わないことに懸念を表明した。

 堺屋氏はまず,「日本はインターネットが発達し,ブログも活性化している。しかし,発信数が多いのと,情報量が多いのは全く異なる。現在の日本は,発信数は多いかもしれないが,情報に豊かさがない」とばっさりと切り捨てた。日本では同じ情報が何度もさまざまなメディアから流されるだけだというのだ。

 その理由として日本では,情報が一方向からしか流れないことを指摘した。具体的には,官僚,東京,同業者からしか情報が流れない状況になっているのだという。

 まず,官僚からの情報の例として示したのが少子化問題。この問題を取り上げるとき,他の先進国と比較し,「男性の権利が強く,女性が弱い国ほど少子化が進んでいる」という結論が導き出されている。しかし,世界を見てみると,アフガニスタンやサウジアラビアが出生率の上位に来る。逆にウクライナや白ロシアは出生率が低い。本当にこの結論は正しいのか。官僚は自分たちの論理を押し通すために,一部の情報しか出さないと断じた。

 また「東京には情報発信能力があるが,情報(コンテンツ)はない」とも述べた。例えば,流行は地方で発生し,東京に入ってきて初めてマスコミが取り上げるが,地方で流行っている段階では誰も取り上げない。スポーツや事故,選挙などの話は地方から入ってくるので,地方のことを知っている気になっているだけ。実際には,日本の全国で何が起こっているのか国民はほとんど知らない状況に置かれているとした。

 最後の,同業者からしか情報が流れないという例では銀行を挙げた。「日本の銀行関係者は,どの国の支店に行っても同じ話をしている。ジョークまでも同じ」と皮肉った。

 こうした環境に国民が置かれた結果,異説・異論が出ない社会になってしまったことが問題だと堺屋氏は指摘する。「最近の若者を見ていると,議論せず,お互いの長所を褒め合うだけになってきている」。異説・異論が出ず,議論がない社会では,今後成長の糧となる独創的なアイデアは生まれない。また独創的なアイデアを生むためには,情報の豊かさ,源の多さ,多元性こそが重要。これがない日本は,国家として非常に危険な状態だと懸念を表明した。

 こうした時代の中で,今後企業が生き残るには,大勢観察,長期的な観察,歴史の学習をすべきだとした。加えて,「裏話と早耳情報は信じてはいけない」とも。「裏話は,面白おかしく伝えるために本来とは違った内容になる。また早耳情報は,自分の耳に入ったころにはみんな知っている。そんな情報を信じてはいけない」と忠告した。