Network Summit 2006で講演するグーグルの村上憲郎社長
Network Summit 2006で講演するグーグルの村上憲郎社長
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 グーグルの村上憲郎社長は2006年9月12日に東京都内で開催された「Network Summit 2006」で,Googleが目指す今後の進化を語った。講演では,インターネットに乗り切らない情報をターゲットにしたさまざまな検索サービスを紹介し,「あらゆるカテゴリのインデックスを統合する」,「ユーザーに合わせて検索結果を表示する」という次なる目標を掲げた。

 講演を通して村上氏は,Googleのミッションである「世界中の情報を整理して,世界中の人がアクセスできて,使えるようにすること」を繰り返し強調した。Googleのビジネスはこのミッションに加え,「サービスを無料で提供する」「収入は広告収入のみ」という三つのポリシーで成り立っている。

 これらの三つのポリシーの中核となるのは「技術」。村上氏は,Googleが前向きなスパイラルを形成しているしくみを次のように語った。まず,世界中から優れたエンジニアを集める。だが,それだけでは彼らのモチベーションは上がらない。ここで,彼らに世界最大規模のコンピュータ・システムを自由に使える環境を提供することが重要だという。この環境とは,開発環境だけでなくサービスを実現するためのプラットフォームも指す。

 村上氏によると,リソースが無尽蔵にあれば,エンジニアは思いも付かないようなサービスを開発するという。「世界最大規模のインフラを与えられると,エンジニアはユーザーにとって最大の課題だと思われていることに挑戦し,日々わくわくするようなことができる。こうして,優れたエンジニアがさらに集まってくる」(村上氏)。このサイクルがうまく回り,Googleの「技術」という強みを支えている。

 中盤では,Googleならではの広告モデルについて触れた。Googleでは「AdWords」という広告を集めるしくみと,「AdSense」という広告を配信するしくみを取り入れている。これらのしくみによって,「何かを探しているときに,狙いすましたように,情報として価値が高い広告を表示する」(村上氏)のだ。検索結果だけでなく,新聞記事やブログの記事にも,内容に関連する広告を自動的に配信している。

 「この広告モデルは“ロングテール”という新しい現象として,ビジネスの成功事例に挙げられることが増えてきた」(村上氏)。ここでいうロングテールは,広告出稿のグラフを描いたときに,全体に対して低料金の広告が占める割合が高いことを意味する。AdWordsで広告を集める場合,恐竜の頭や胴体に相当する部分は広告代理店が集める大手の広告主。一方,小さなショップをやっていて,月間予算が1万円そこそこという小額の広告がロングテールにあたる。同時に広告を配信するAdSenseもロングテールのモデルに該当する。大手の新聞社が恐竜の頭や胴体,ブログが尻尾になる。このロングテール配信モデルが市場の評価を得ていると村上氏は述べた。

 広告に関して村上氏は,「グーグルが既存の広告モデルを破壊するのではないか」という誤解を払拭したいと訴えた。村上氏によると,「広告はざっくり6兆円ほどの市場規模と言われている。インターネットの広告はそのうちわずか4%(約2400億円)に過ぎない。このうち,我々のようなコンテンツに関連して表示する広告(インテンショナル型)は3分の1。ここからわかるように,我々の広告市場のほんの一部」。ただし,AdSenseのしくみはインターネット以外のメディアにも広げていきたいという意向も示した。例えば雑誌の広告で,編集作業上で隙間ができてしまったときにGoogleが記事に関連する広告を出すという手法である。

 今後のGoogleの進化については,「インターネットに乗り切れていない情報を整理したい」との意気込みを見せた。具体例として,現在ベータ版を提供中の書籍検索サービス「Google Book Search」,動画検索サービス「Google Video」などを挙げた。加えて,組織や企業のファイアウォールの内側にある情報の検索,KDDI(au)との提携で始めた携帯電話向けの検索を紹介。将来的には,あらゆるカテゴリのインデックスを“統合したインデックス”として示したいと村上氏は語った。

 講演の最後に,村上氏はGoogleが考える次のステップを明かした。現在は誰に対してもが同じ検索結果が表示されているが,今後は「ユーザーがどういう情報を検索し,表示された検索結果からどのような情報をクリックするのかを観測することで,Aさんに対してはAさん向けの結果を出したい」(村上氏)。このしくみはユーザーの納得と同意を得たうえでようやく実現できることだが,今後はこのようにユーザーに寄り添う形でGoogleサービスを提供したいと述べた。