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 「既存の地域活動とSNSをつなげていけば、いろいろな可能性が生まれるのでは?」「行政の電子掲示板のように、たくさんの地域SNSが生まれ、たくさん消えていくだろう」--9月10日、横浜市で開催されたイベント「市民メディアサミット06」において、「地域SNSは地域の活性化に役立つのか?」と題したセッションが行われた。

 地域SNSは、2004年10月熊本県八代市で「ごろっとやっちろ」が誕生して大きな注目を浴びた。その後、総務省の実証実験などで認知がさらに広がり、今年に入ってから各地で次々と地域SNSが作られている。国際大学GLOCOMに事務局を置く地域SNS研究会の調査によると、7月末現在で108以上の地域SNSが確認されているという。運営主体は自治体、民間企業、NPO、個人など様々だ。

 セッションでは、「mixi(ミクシィ)などの大規模SNSの地域コミュニティとどこがちがうのか」という“よくある質問”について、GLOCM研究員で地域SNS研究会事務局の庄司昌彦氏は各地の地域SNSの状況を踏まえて次のように語った。

 「地図機能の活用など特性に合った独自機能の付加は、独自のSNSでなくてはできない。また、イベント開催やゴミ拾い活動など地域に根付いた活動や地域組織やメディアとの連携は、独自の地域SNSのほうが盛んだ。事業として立ち上げているSNSは特に運営者の熱意が相対的に高いのではないか」(庄司氏)。

 現在、地域SNSの会員数は最大でも3000人程度(福岡の「VARRY」。地域SNS研究会調べ)。これを少ないと見る向きもあるが、ディスカッションの座長を務めた横浜市立大学国際総合科学研究院準教授の鈴木伸治氏氏は「まちづくりには“1%の法則”と呼ばれる現象がある。どんなにがんばって参加を募っても1%の参加があれば大成功の部類に入る。それを考えると3000人という参加者数は無視できない影響力を持つ人数といえる」とコメントした。

■地域SNSがきっかけで、他の地域活動に結び付く例も

 各地で活動している地域SNSの現状報告も行われた。

 総務省の実証実験がきっかけで生まれた千代田区地域のSNS「ちよっピー」では、SNSに設置された「千代田day's」という地域サイトの編集企画コミュニティにおいて、桜の花見案内など地域サイトのコンテンツ企画を練った。それけでなく、このコミュニティがきっかけで、行政職員が花見会場のボランティアスタッフとして参加するなど、リアルの場への影響力も見られたという。運営する財団法人まちみらい千代田企画総務チームリーダーの三浦博子氏は「リアルと連動して、地域の課題、魅力、人材発見に寄与できる形を探っていきたい」と語った。

 横浜地域で計画されている複数の地域SNSの関係者による「横浜SNS研究会」からは、地域SNS同士のコンテンツ共有、サーバー、システムなどインフラ部分の共有ができないかという議論が行われているという報告がなされた。

 川崎市で「かわさきソーシャルネット」という地域SNSを運営する社団法人川崎地方自治研究センター研究員の三浦伸也氏は「これまでセンターでは市民活動支援をしてきたが、その場のイベントだけで終わってしまうことが多かった。地域SNSでお互いのつながり、交流の広がりを持たせることができれば」とSNSの可能性を語った。このSNSでのやり取りを経てインターネットラジオ局ができるなど、人の交流の広がりも一部で出てきているという。現在会員数は100人程度と少ないが、三浦氏は「私たちは公益法人であり商用目的ではないので会員数を増やすのは急務ではない。また、SNSだけで何かをやろうというわけではない。急がずじっくり展開していきたい」と、運営方針を説明した。

 地域ポータルや電子会議室といったインターネットのツールを既に活用している地域では、地域SNSの導入意欲は総じて低いようだ。藤沢市市民電子会議室の運営委員長を務める田中美乃里氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 助手・SFC研究所所員)は「制度上政策提言につなげることができる電子会議室があるので、私見だが、この電子会議室とは別にSNSを作る必要性は感じていない」とした。地域サイト「ウェブシティさっぽろ」を運営する特定非営利活動法人シビックメディア専務理事の杉山幹夫氏は「これまでの活動のなかで地域SNSの必要性は感じたことがない。180万人という大都市に地域SNSが向いているのかという疑問もある。むしろ規模の小さいコミュニティに向いているのではないか」と語った。

 2時間半以上におよぶディスカッションの総括として、横浜市大の鈴木伸治準教授は「地域SNSが向いている活動/向いていない活動がある。それぞれの目的、テーマを手がかりとしながら、最適なコミュニケーションの場を作っていくことが重要」と締めくくった。なおディスカッション概要および出席者プロフィールは「市民メディアサミット06」のサイトのセッション紹介ページ(こちら)を参照のこと。