基調講演には,IEEE Computer Society会長でITコンサルタント会社の社長でもあるデボラ・クーパー氏が登壇した
基調講演には,IEEE Computer Society会長でITコンサルタント会社の社長でもあるデボラ・クーパー氏が登壇した
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パネルディスカッションには女性のITプロフェッショナル5人が登壇。左が日本IBM 東京基礎研究所 Innovation Informatics 次長の澤谷由里子氏,右が富士通研究所 ITコア研究所 主管研究員の山本里枝子氏
パネルディスカッションには女性のITプロフェッショナル5人が登壇。左が日本IBM 東京基礎研究所 Innovation Informatics 次長の澤谷由里子氏,右が富士通研究所 ITコア研究所 主管研究員の山本里枝子氏
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左から,日立製作所 ビジネスソリューション事業部主幹技師の安信千津子氏,筑波大学 大学院ビジネス科学研究科 助教授の中谷多哉子氏,津田塾大学 学芸学部 情報科学科 教授の来住伸子氏
左から,日立製作所 ビジネスソリューション事業部主幹技師の安信千津子氏,筑波大学 大学院ビジネス科学研究科 助教授の中谷多哉子氏,津田塾大学 学芸学部 情報科学科 教授の来住伸子氏
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 情報処理学会とIEEE Computer Societyは共催で「ITダイバーシティフォーラム」を9月7日に開催,女性技術者・研究者の活躍を広げるにはどうすべきかを多面的に討議した。学会としても初めての取り組みだという。

 基調講演には,IEEE Computer Society会長でITコンサルタント会社の社長でもあるデボラ・クーパー氏が登壇。IEEE Computer Societyの60年にわたる活動を紹介するとともに,IT技術者のレベルアップのために様々な情報提供や実践的なプログラムを行っていると説明した。

 「コンピュータ業界が求めるスキルを持った労働力は深刻な供給不足になりつつある」とクーパー氏は語る。米国ではコンピュータ科学を専攻する学生が,2004年から2005年にかけて1割以上減少し,この傾向はしばらく続くと予想されているという。一方で,コンピュータ教育を受ける機会が得られない人や能力不足な人たちがおり,彼らの教育が重要な課題なのだという。

 こうした背景からIEEE Computer Societyは,学生,女性,少数民族,途上国にいる潜在的な労働力の開発に取り組むことにした。まず雑誌やオンラインマガジンを発行し,ITの魅力を盛り込んだトピックスを紹介する。CSDPという入門者向けの資格制度も作った。さらにマイクロソフトをスポンサーに仰ぎ,コンピュータの設計技術を競う国際競技会を2001年から開催している。

ネットワークでダイバーシティを克服しよう

 続いて,筑波大学 大学院ビジネス科学研究科 助教授の中谷多哉子氏,日本IBM 東京基礎研究所 Innovation Informatics 次長の澤谷由里子氏,富士通研究所 ITコア研究所 主管研究員の山本里枝子氏,日立製作所 ビジネスソリューション事業部主幹技師の安信千津子氏,津田塾大学 学芸学部 情報科学科 教授の来住伸子氏の5人に,クーパー氏が加わり,パネルディスカッションを行った。

 IT業界は他の業界に比べて女性比率が少ない。日立製作所の例では,入社時には10%以上ある女性比率が,課長以上になると2%に減ってしまう。なぜ女性の退職率が高いかといえば,「キャリアの将来像が見えない」「仕事と家庭の両立が難しい」「男性の社会に入り込めない」などが主な理由として挙げられた。会場からも,「女性はただでさえロールモデルが少なく,これからどうなるんだろうと不安を感じている。相談してくれればよいのだが,黙って思い詰めて退職してしまう後輩も多い」という声が上がった。

 「とにかくコミュニケーションをとること。技術者の場合,打ち合わせもメールで済ますことが多いが,顔を合わせて話さないとわからないことも多い」。澤谷氏はこう語り,社内ネットワークの重要性を強調した。澤谷氏自身も,先輩(メンター)と話すことでこれまでずいぶん救われてきたという。企業側もこうした事情を察知し,女性の先輩と後輩との交流会を開いたり,女性の能力活用を話し合う専門委員会を組織するなどの取り組みが始まっている。

 「良くも悪くも,過剰評価されるのが女性。こうした外からの評価に左右されないためには,自分自身のキャリアの目標をしっかり持つこと」。こうアドバイスするのは,津田塾大学教授の来住氏だ。同氏は日本IBMから大学に転身したキャリアの持ち主である。「逆に目立つことを利用して,自分を売り込んでいってほしい」(澤谷氏)。「あなた自身が質の高い仕事をするように心がけること。女性か男性かは問題にならない」(クーパー氏)

 仕事に家庭に勉強──ライフバランスも女性にとって大きな問題だ。とくに子育ての時期には,どうしても仕事をペースダウンしなくてはならなくなる。日立の安信氏も不安を感じたことがあった。「仕事が変わったり,減らされたりして,まるで自分が必要とされていないのではないかと思ったこともある。でも,仕事人生の中で,子育てで大変なのはほんの一時のこと。焦らず,今しかできない子育てを満喫してほしい。まじめに質の高い仕事をしていれば,遅れはきっと取り戻せる」。

 ただでさえ女性の少ないIT業界にあって,女性の管理職といえば圧倒的な少数派。そこに不安を感じ,昇進に二の足を踏む女性も多い。だが,与えられたチャンスはぜひ手にして欲しい,と富士通の山本氏は言う。「挑戦して万一失敗したとしても,そこから得るものは大きい。私もいろいろな仕事を経験したが無駄な仕事は一つもなかった。毎日の地道な努力の積み重ねがキャリアなのだと思う」。

 若い女性が立ち上がって次のように話し始めた。「4回転職したが,今の仕事にもまだ満足できず,夜間の大学院に通っている。結婚も考えているが,私は欲張りすぎだろうか」。キャリアを積んだ壇上の5人の女性たちは異口同音にこう答えた。「どれもあきらめなくていい」と。

 クーパー氏の言葉はこうだ。「情熱を持って取り組めば,できないことは何もない。最も愚かなことは,あなたが30年後年老いた時に『あのとき,ああすれば良かった』と後悔することだ」。