「ITproフォーラム in 大阪」の午後の基調講演に立つガートナー ジャパンのアナリスト,亦賀 忠明氏
「ITproフォーラム in 大阪」の午後の基調講演に立つガートナー ジャパンのアナリスト,亦賀 忠明氏
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 「基幹系システムは歴史的な転換点を迎えている」。こう切り出したのはガートナー ジャパンでITの基盤分野を見るアナリスト,亦賀 忠明 ガートナー リサーチ エンタープライズ・インフラストラクチャ バイス プレジデントである(関連情報)。亦賀氏は9月5日に開催された「ITproフォーラム in 大阪」で,基幹系システムが今後どの方向に進むのか,その見立てを披露した。

 銀行で言えば勘定系システム,証券取引所で言えば約定システム。基幹系システムとは企業や組織の基幹業務を支える「止まってはいけない情報システム」の総称である。その基幹系システムは主に,これまで大型コンピュータであるメインフレームが支えてきたのは言うまでもない。

 そのメインフレームは,オープン系サーバーの進化とともに,“滅亡”するとも,生き残るとも言われている。米IBMを除き,大手ハード・メーカーはメインフレームの開発・生産を相次ぎ止めている。あるいは富士通のように表向きは「止めない」とは言いつつも,大きく“トーン・ダウン”しているのが現状だ。

 その結果,ユーザー企業にとって「基幹系システムの計画に大きく左右する大きな話題になる」(亦賀氏)。ところが「たしかに日本のメインフレーム市場は縮小しているが,世界全体で見るとそう落ち込んではいない」。

 亦賀氏によると,日本のメインフレーム市場はこの10年間で半分以下に縮小した。しかし世界のメインフレーム市場はほぼ横ばい。数字を見る限りオープン系サーバーがメインフレームの市場を奪っているとは言えず,主立った変化と言えば,IBMによる市場の占有率が高まっただけだ。メインフレーム市場の約8割がIBMの“取り分”という。

 少なくとも日本のユーザー企業に言えることは,「国産メインフレームが今後も基幹系システムの受け皿になるのは厳しい」(亦賀氏)ということだ。だからこそ日本では,レガシー・マイグレーションという名で,メインフレームからオープン系システムへの流れが拡大した。米インテルがハイエンド・サーバー向けプロセサ「Itanium2」の世界展開で日本市場を重視するのも,それが大きな要因である。

 かといってメインフレームを捨てるという方向感もはっきりしているわけではない。「2003年ごろからレガシー・マイグレーションのかけ声はトーン・ダウンしているのが実態」(亦賀氏)だ。

混沌とした状況だからこそベンダーの動きを観察せよ

 日本のユーザー企業にとっては,「メインフレーム to オープン」が答えではない。かといってIBM製メインフレームに切り替えるのも正解とは言えない。かなり混沌とした状況だからこそ,「ユーザー企業はベンダーのサーバー戦略を注意深く観察する必要がある」と亦賀氏は語る。

 そんな折りに亦賀氏がベンダーの特徴的な動きとして挙げたのが,日本のベンダー各社が相次ぎ投入しているサーバー機である。例えば富士通の「PRIMEQUEST」であり,日立製作所の「BladeSymphony」であり,NECの「シグマグリッド」である。各社は「基幹系システムに適用できる,メインフレーム並の性能」とアピールしている。

 さらに亦賀氏は,各社はハードウエア単体だけでなく,ミドルや運用管理などのサービスを含め“垂直統合”であることを指摘する。要はその意味でもメインフレーム代替を意識している,ということだ。「これまでオープン系では弱かったバッチ処理などについても,各社は解決策を出しつつある。仮想化機能も強化し,可用性を積極的に訴えている。SOA(サービス指向アーキテクチャ)といった,これからの基幹系に必要な要素も盛り込んできた。問題は散見されるが,悪い方向には進んでいない」(亦賀氏)。

 一方,IBMはメインフレーム用にLinuxやJava,SOAを実現するミドルウエアを投入。「メインフレームだがオープン」というポイントを打ち出し,ユーザー企業からの支持を得ている。

 メインフレームとオープン系システムそれぞれが持つ利点・欠点は,技術革新でリカバー可能になりつつある。もはやメインフレーム対オープンという対立軸がさほど重要でなくなってきたこの時代は,歴史的な転換点と表現しても決して言い過ぎではないだろう。

 そんなタイミングで亦賀氏がユーザー企業にアドバイスするのは,「ベンダーには,今後どこに向かってどんな製品を出すのか,建前ばかり言わずに本音はどこか,と追求するべき」ということである。ユーザー企業の基幹システムの行く末を左右するサーバー戦略が見えなければ,ユーザー企業の生命線である情報システムを預けることはできない。

 法令遵守をはじめ,ユーザー企業のIT部門が対応するべき問題が広がっている今だからこそ,「ベンダーはしっかりとした基盤製品を提供するべきだ」(亦賀氏)。一方,ユーザー企業はベンダーに厳しくも建設的な意見を述べるべきと亦賀氏は締めくくった。