「ITproフォーラム in 大阪」の基調講演に立ったガートナーの宮本 認氏
「ITproフォーラム in 大阪」の基調講演に立ったガートナーの宮本 認氏
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 「J-SOX(いわゆる日本版SOX法)対応は,IT部門にとって千載一遇のチャンス。ビジネスと業務を把握してITの企画につなぐ,本来のIT部門が備えるべき能力を鍛える良い機会」。ガートナー ジャパンでコンサルティングを務めるバイス・プレジデントの宮本 認氏(関連情報)はこう力説した。

 宮本氏は9月5日に大阪で開催された「ITproフォーラム in 大阪」で講演。日本版SOX法対応に向けて,IT部門はどう取り組めばよいか,その考え方や指針を提示した。

 法律の制定・改正に合わせた業務の見直しやシステムの改変に対しては,当たり前のことではあるがどの企業も“後ろ向き”だ。「これを好機ととらえて,社内の業務プロセスを見直したり,リスク管理体制を構築しよう」。このように呼びかける声もIT業界内では多い。

 ただ宮本氏は「コンサルティングしている企業を概括すると,特に大企業ほど,前向きなスタンスで取り組もうとしているIT部門は少ない。まずは様子を見ようという“指示待ち派”が大多数」と実情を語る。

 大企業で指示待ち派が多い理由の一つとして,過去BPRの実施やERPの導入で,業務プロセスの見直しを済ませてきたことを宮本氏は挙げる。「景気回復の動きもあり,社内では攻めのIT投資をどう進めるか話がようやく持ち上がってきた。そこにSOX法対応という後ろ向きのテーマが飛び込んできた」(宮本氏)。景気低迷が続いてきた過去10年間,ITコスト削減に躍起になって取り組んできたIT部門にとっては“一難去ってまた一難”といった格好だ。前向きに取り組め,と言われても,正直そうはとらえられない---こんなIT部門の嘆きが聞こえてきそうだ。

 そうした声に同情の余地はあるかもしれない。しかしここで宮本氏が畳みかけるように指摘するのが,いまだに払拭できないITに対する経営者からの不信感だ。ガートナーの調査によると,「ITによって期待通りの結果が得られた」と明確な感想を持っている経営者は6%に過ぎない。「多くの経営者は,ITに対して“なんとも言い難い”という印象を持っている」(宮本氏)。つまり,IT部門はいまだに経営者から信頼される存在になっていないと言って良いだろう。

 IT部門は経営やビジネス,業務の問題を発見してソリューションを提示する存在になるべき。このようなことが繰り返し言われてきた。しかし,それも「今初めて言われたテーマではない」(宮本氏)のは,IT部門自身が十分承知していることだろう。ただ宮本氏はそうした“IT部門にとって永遠の課題”に近づく手段の一つが,SOX法対応だとあらためて提言する。

 IT部門こそが持つべきスキルは,自社の業務を洗い出し,問題点を把握し,解決策を導き出してシステム化につなぐ能力である。自社の業務を棚卸しし,問題点とリスクを洗い出し,経営効果を見つつ文書化やシステム化を通じて対処。そして,その効果を検証していくSOX法対応は「このスキルを鍛える千載一遇のチャンスだ」(宮本氏)。ユーザーに対して否が応でも食い込むSOX法対応を通して,IT部門の人材が備えるべき能力を育成する。数年来続いたIT部門の縮小で失いつつある能力が,SOX法対応で再度取り戻せるのでは,というのが宮本氏の考え方である。

 「SOX法対応に正面から取り組めば,経営者にITの効果をきちんと説明できる能力が身につけられるはず」と宮本氏は壇上で繰り返し訴えた。