マイクロソフトは8月31日、横浜で開催中の技術者向け会議「TechEd 2006」で、全世界における社内システムの現状を披露した。説明したのは、同社の荒瀬達也 Microsoft IT JapanRegional IT & Regional Solution ディレクター。1986年のマイクロソフト日本法人設立と同時に入社し、PC-UNIXのXenixサーバー導入を手がけた。現在は日本法人の全IT関連業務を統括している。

 荒瀬ディレクターはまず、社内システムの規模を紹介した。パソコンの数は34万台、ユーザー数は12万1000人に達するという。ユーザー数は、マイクロソフト社員約8万人に、社外の協力スタッフを含めたものである。パソコンが34万台に上るのは、一人が複数台使っていたり、研究所で使うテスト用のパソコンを含んでいるためだ。

 マイクロソフト社内で流通する電子メールの数は、社員が出すメール数が1日当たり300万通、社外からのメール数が同1000万通。社外からのメールのうち、900万通はスパム・メールやウイルス付きメールで、自動的にフィルタリングされるという。

 荒瀬ディレクターによれば、「マイクロソフト社内のコミュニケーションは、インスタント・メッセンジャー(IM)を使った、より速くインタラクティブな手法に移行しつつある」。2年前は、社員1人が受け取るメール数は1日当たり60通だったのに対し、現在は30~40通。一方で、現在やり取りされるIMのメッセージ件数は、月に33万件に達するという。

 年間のIT予算は、「絶対額は言えないが、売上高の0.7%」(荒瀬ディレクター)。同社の2006会計年度の売上高は442億8000万米ドルなので、年間のIT予算はざっと3億ドル強、日本円にして約350億円ということになる。

 この予算を切り盛りするマイクロソフトのIT部門は、どれくらいの規模か。要員数は2600人。正社員と社外スタッフが半々だという。

 興味深いのがIT部門の離職率だ。「マイクロソフトにとって『辞めてくれてよかった』ケースが毎年およそ4.0%、『残ってほしかったのに辞められてしまった』ケースが1.6%ある」と荒瀬ディレクターはいう。「私としては、離職率がけっこう高いと思っている」(同)。

 荒瀬ディレクターは、マイクロソフトのIT部門のミッションとして、「自ら社内に“ドッグフード”を食べさせること」を挙げる。ここで言うドッグフードとは、自社の製品のこと。まず自社内で利用し、バグをできる限り減らしてから出荷することを意味する。「最初はまずくて、おなかを壊すかもしれないが、自分たちでまず食べてみることが不可欠だという考えに基づいている」(荒瀬ディレクター)。現在もドッグフード活動を進めており、約2万人がWindows VistaパソコンとWindows XPを併用、3万人が次期Officeを使っているという。

 今後は社内に向けたセキュリティ・ポリシーの徹底を図る。例えば、USBキーを社員に配って、それを使わないとパソコンを利用できないようにする。メールに関しても、近々サーバーに保存できるメールの容量を2GBまで増やす代わりに、ローカルにはメール・データを保存できないようExchangeサーバーの設定を変更するという。

 現在も、メール・データは原則としてサーバー上に保存することになっている。だが、メールボックスの容量が200MBしかなく、ほとんどの社員はローカルのパソコンにメール・データを保存している。これだとローカルに保存したデータが外部に漏れてしまう恐れがあり、「法務上、大きな問題になりうる」(荒瀬ディレクター)。

 加えて、「IT部門が承認していない業務アプリケーションの排除を徹底する」(荒瀬ディレクター)。マイクロソフト社内で使っている業務アプリケーション数は約2500。うちIT部門が承認したアプリケーションは、2割しかない。それ以外のアプリケーションを、同社は「シャドウ・アプリケーション」と呼ぶ。「非常にセキュリティが脆弱で、危険なアプリケーションだ」(同)。実際、5年前には管理者のIDとパスワードを簡単に表示できてしまうシャドウ・アプリケーションが見つかったことがあるという。

 今後は、アプリケーションすべてをIT部門が管理することとし、しかもIT部門がセキュリティをチェックして、OKを出したものでないと使用を認めないようにする。

 これらのセキュリティ対策の中には、マイクロソフト社員にも、まだきちんと伝えていないものもあるという。今後マイクロソフト社員は、より厳しい管理下に置かれることになりそうだ。