IBM幕張事業所
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 世界最大のIT(情報技術)ソリューションベンダーである米IBMは、新任のラインマネジャー向けの研修を強化した。研修で教えた内容を、ラインマネジャーが日々の仕事や戦略立案に従来以上に活用できるように工夫したのだ。特に、自身や部下などの思考パターンやコミュニケーション・スタイルなどの特性を4通りに分類する手法「ハーマンモデル」の使い方をより深く体得できるようにした。

 ハーマンモデルは、大脳生理学理論などを元に開発した手法で「脳優勢度調査」とも呼ばれる。米ゼネラル・エレクトリック(GE)で能力開発部門の責任者だったネッド・ハーマン氏が1977年に基本モデルを開発。その後改良を重ねて、90年代から現在までに米インテル、米P&G、米コカコーラ、資生堂、キヤノンなどが採用。IBMは99年から、ラインマネジャー研修に取り入れている。

 ハーマンモデルでは、まず120問から成るアンケート調査を実施。その回答結果から人材を「問題解決能力が高い(論理的、分析的、事実重視、数量的)」「管理能力が高い(系統だった、順序だった、計画的、詳細な)」「チームワーク力が高い(対人的、感じに基づく、運動感覚性の、感情的)」「創造力が高い(全体的、直感的、統合的、合成的)」の4タイプに分類する。

 IBMでは研修にハーマンモデルを盛り込んで以来、2005年までの6年間、日本だけで計1800人程度が講義を受けた。グローバルに見れば、計30万人以上いるIBMグループ社員のうち少なくとも1万人は受講経験がある。しかし、単にハーマンモデルの講義をしても、なかなか現場で活用できないラインマネジャーもいるのが実情だ。

 そこで昨年から、ハーマンモデルの活用事例をまとめた冊子を配布し始めた。さらに、手法を身体に覚え込ませるやり方を導入。具体的には、事前にハーマンモデル調査を受けた20人強の研修者を、新規ビジネスを立ち上げる戦略を作るために4チームに分ける。優れた戦略を作るべく競わせるのだが、途中で人材の交換を自由にさせる。すると、最後にはどのチームにも4タイプの人材が入るようになるという。また、この演習とは別に、同タイプの研修者をグループ化した後、各人に自分とは異なるタイプのグループのところに行ってもらい、思考パターンの違いを体感させる。

 IBMがハーマンモデルの活用を重視する理由は、肩書きに関係なく全社員にリーダーシップを求める点、多様性のある人材を集めてチームを作ることを重視する点、お客様との円滑なコミュニケーションを大切にする点が挙げられる。

 日本IBM研修サービスの渡邉桂子プロフェッショナル研修リーダシッププログラム担当次長は、「IBMでリーダーシップといえば、人を通じて高い業績を達成することを指す。元CEO(最高経営責任者)のルイス・ガースナーは、『昨日までやりたくない、できないと思っていたことを、人にさせる力がリーダーシップ』とよく言う。そして、リーダーシップは訓練で磨けるものだ」と説明する。

 ハーマンモデルを使って自身や部下のビジネスパーソンとしての特性を分析すれば、ラインマネジャーは自分のチームの強みや弱みを把握したり、部下の指導や育成が容易になる。また、ハーマンモデルの利用に慣れてくれば、「お客様と少し話をすればどのタイプに当てはまる人なのかが分かり、どんな説明の仕方をすれば円滑で有効なコミュニケーションをとれるかが分かる」と渡邉次長は言う。

 日本では、ハーマン・インターナショナル・ジャパン(東京・千代田)がハーマンモデルの利用方法を教える研修サービスをIBM以外の企業に提供している。同社の半澤道夫社長は、「ハーマンモデルは、その人がどんな職種やマネジメントレベルに適しているかを判断するのにも有効だ」と強調。さらに、「チームが最も力を発揮しやすい人数は7人。ここに4タイプの人材を万遍なく入れる。8人にしないのは、チームが2分する可能性が高まるから」と続ける。