写真1:マイクロソフトがITプロに誓った4つの約束
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 過去例を見ないほどの新製品ラッシュになる---。8月29日に開幕したシステム管理者向けイベント「TechEd 2006 Yokohama」の基調講演で,マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部の五十嵐光喜ディレクターはこう強調した。マイクロソフトは2006年から2007年にかけて,「Windows Vista」や「Office 2007」だけでなく,アプリケーション開発ツールの「Expression」,「System Center」ブランドのサーバー管理用新製品や「ForeFront」ブランドのセキュリティ新製品などを,一気にリリースする。

 五十嵐氏は「マイクロソフトは新製品を通じて,ITエンジニアをサポートするための『4つの約束』を実現する」と語った(写真1)。4つの約束とは,「機敏なITインフラ」「ビジネス機会の拡大」「ワークスタイルの進化」「包括的なセキュリティ」---である。

 機敏なITインフラとは,「開発者やシステム管理者の経験と知識に基づいた運用管理を実現したり,仮想化技術をサーバー・リソースの動的再配分に利用したりすることで,ビジネスの変化に機敏に対応できるITインフラを構築できるようにする」(五十嵐氏)。

 経験や知識に基づいた運用管理を実現する製品として紹介したのが,運用管理ソフトの「Microsoft Operations Manager(MOM) 2005」だ。MOM 2005で管理するアプリケーションは,障害が起こった際に,その原因を簡単に突き止めることができるという。これは,トラブルの症状から原因を推測する条件(ルール)を,当該アプリケーション開発者が「管理パック」という形で提供しているため(マイクロソフト製だけでなくサード・パーティ製アプリケーションの管理パックも提供されている)だ。

 MOM 2005の後継バージョンは,2007年中に「System Center Operations Manager 2007」という名称でリリースされる。新バージョンでは経営層(ビジネス・マネージャ)向けのレポート機能などが追加される。

「SMS 2003 R2」でカスタム・アプリケーションのパッチ配布が可能に

 2006年第3四半期に「R2」としてリリースされる予定のクライアント管理(構成管理)ソフト「Systems Management Server(SMS) 2003 R2」についても説明があった。SMS 2003 R2では,ユーザー企業などが自作したカスタム・アプリケーション用の更新プログラム(パッチ)も配布できる。

 パッチを配布する前に,どのバージョンのカスタム・アプリケーションがクライアントにインストールされているか調査できるようにもなった。クライアント・パソコンを,「特定のファイルが存在するか」「特定のレジストリ・キーに値が存在するか」といった,アプリケーション固有の条件で調査する。これも,開発者の知識を活用した運用管理の一例だ。

 なおマイクロソフトでは,MOMの機能とSMSの機能を統合した中小企業向けのシステム管理製品「Systems Center Essentials」もリリースする予定だ(関連記事:米MSのシステム管理製品の新ターゲットは「仮想化」と「中小企業」)。同ソフトを使うと,クライアント・パソコンとサーバーのシステム更新や監視,構成管理のすべてができるようになる。

顧客に見せるUIがビジネスの成功を左右する


写真2:「Expression」で開発したオンライン証券用アプリケーション
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 五十嵐氏が2つめの約束として挙げたのが「ビジネス機会の拡大」というもので,「(使いやすくて見栄えの良い)リッチなユーザー・インタフェース(UI)を備えたアプリケーションを,できる限り低コストで開発できるようにすること」だという。「かつては,顧客に相対していたのは営業マンだった。それが電子商取引になると,ITがお客さんに相対する。ITの使いやすさこそがビジネスの成功を左右するようになった」と五十嵐氏は強調する。

 リッチなUIを備えたアプリケーションを,コーディング量を抑えて開発できるようにするツールが「Expression」だ。Expressionは,Windows Vistaと同時に提供が開始される「.NET Framework 3.0」の「Windows Presentation Foundation(WPF,開発コード名:Avalon)」用のアプリケーションを開発するための,ビジュアル開発ツールである。写真2は,基調講演でデモされた,Expressionで作成したオンライン証券取引アプリケーションである。3次元グラフを動的に表示したり,グラフのサイズを自由に変更したりといった,HTMLだけでは表現が難しい表示を実現している。

 Expressionの特徴は,「コードを書く量を抑えて,アプリケーションを開発できること」(マイクロソフト)。例えば,「画面のある場所をクリックすると,0.5秒後に画面の一部が拡大する」といった処理なら,スケジュール表のような「タイム・ライン」にアクションをGUI操作で登録するだけで,機能を実装できるという。

 このほか基調講演では,データベース・アプリケーションのチーム開発を効率化する「Visual Studio 2005 Team Edition for Database Professionals」という新製品が2007年第1四半期に出荷されることが明らかにされた。同製品の詳細は,公開されていない。

Windows VistaとOffice 2007は「検索機能」をアピール


写真3:Windows Vistaのエクスプローラ上でExcelファイルの内容を開かずに閲覧している
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写真4:「SharePoint 2007」では人物データの検索も可能
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 3つめの約束「ワークスタイルの進化」は,Windows VistaやOffice 2007の登場によって,パソコンを使った業務作業が効率化することを指す。例えばWindows Vistaには,インデックス・ベースの全文検索機能が搭載され,検索結果の画面ではファイルを開かずにExcelやPowerPointファイルの中身を閲覧できるようになる(写真3)。同様に「Outlook 2007」でも,ExcelやPowerPointの添付ファイルは開かずに,メッセージのプレビュー画面で内容(PowerPointの場合はスライドのアニメーションまで)を表示できるという。

 またOffice 2007のサーバー・アプリケーション「SharePoint Server 2007」では,人物をデータベース化して「人物検索」ができるようになる(写真4)。人物(社員)同士のつながり(誰の部下,誰の同僚)なども把握できるので,「SharePoint 2007は,社内ソーシャル・ネットワーク・サービス的な存在になる」(マイクロソフト)という。

 SharePoint 2007に関しては「Excelサービス」という機能も紹介された。これは,サーバーに保存されているExcelファイルをサーバー側でHTMLにレンダリングして,ユーザーに表示する機能。「Excelのグラフは見せたいけれども,セキュリティ上の問題から元データ(Excelファイル)は渡したくない」というユーザーがいる場合に便利であるほか,Excelファイルが各ユーザーのデスクトップに保存されることによって,様々なバージョンが社内に散在するといった事態を避けられる。

Vistaのグループ・ポリシーは「1000個増加」


写真5:USBキーがないと起動できないパソコンの画面
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写真6:2007年に向けたセキュリティ製品のロードマップ
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 最後の約束である「包括的なセキュリティ」は,文字通り製品のセキュリティ強化を指す。Windows Vistaでは,システム管理者によるきめ細やかな管理を実現できるよう,グループ・ポリシー(Active Directoryを使ってクライアントを一元管理するための機能)で設定できる項目が,Windows XP SP2と比較して1000個以上増えるという(Windows XP SP2が約1300個なので合計では2300個以上になる)。

 Windows Vistaには,Windowsのブート・ドライブを暗号化して保護する「BitLocker」という機能が搭載される。BitLockerの暗号化キーは,セキュリティ・チップの「TPMチップ」または,外付けのUSBメモリーに保存される。今回の基調講演では,NEC製のパソコンとUSBメモリーを使ったBitLockerのデモを行った。このデモでは,暗号化キーの入ったUSBメモリーを挿さなければ,ログオン画面にすらたどり着けなかった(写真5)。

 セキュリティに関しては,2006年から2007年にかけて「Forefront」というブランドで,大量の新製品をリリースすることにも触れた(写真6)。例えば,Exchange Server用の「Forefront」は,ウイルス・スキャンだけでなく,電子メールやインスタント・メッセンジャーのメッセージ本文のスキャンも可能で,機密情報の漏えいなどを未然に防げるという。Forefront Client Securityは,企業内クライアント用の統合セキュリティ製品で,ウイルス対策機能やスパイウエア対策機能を備え,これらの機能の中央管理がActive Directory環境で可能になる。