牧野総合法律事務所の牧野二郎弁護士
牧野総合法律事務所の牧野二郎弁護士
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 「経験と勘に基づいた日本型経営に、米国流の内部統制をムリに当てはめる必要はない。サッカー日本代表のオシム監督が、日本選手の特性を生かしたサッカーを求めるように、日本企業の特色を生かした内部統制のあり方を考えるべきだ」。

 こう主張するのは、牧野総合法律事務所の牧野二郎弁護士だ。牧野氏は8月24日に「内部統制ソリューション展」で「日本型内部統制の実現を目指して--わが国の特徴を踏まえた体質改善を--」と題して講演。「内部統制といえば、米国で生まれたフレームワーク『COSO』が注目されている。だが日本の企業経営は米国とは大きく違う。米国式の企業経営を考慮したCOSOのほかにも目を向けるべきだ」と強調した。

 内部統制のフレームワークとは、内部統制を整備するうえで参考とすべき考え方などを示した文書。米国で作成された「COSO」が最も有名だ。財務報告の適正性を確保するために、日本企業に内部統制報告書の作成を求める、いわゆる日本版SOX法(金融商品取引法)はCOSOをベースに作られたものだ。

 COSOは「機関投資家向けに情報の開示を目指すために作られたフレームワーク」(牧野氏)。日本も米国のように機関投資家が増えてきたが、そんなに多いわけではない。そこで牧野氏が、もっと日本向きのフレームワークとして紹介したのが「ドイツ型の企業統治」だ。ドイツ型は「株主だけでなく、社員、取引先、社会に対する貢献までを考えたフレームワーク。こうしたフレームワークがあることも視野に入れて日本企業は内部統制を考えるべき」(同)

 牧野氏は、日本型経営の特徴として、「情報や経験が人に依存する」ことを挙げる。内部統制を整備するうえでは、これを否定せずに「企業が透明性の高い仕組みを作るべきだ」(同)とする。しかも「情報や経験を持つ団塊の世代の退職が迫っている。日本企業は今、情報と経験を可視化することが欠かせない」と牧野氏は加える。

 そこで牧野氏が薦めるのが「電子メール」の活用だ。「『忙しいのに記録を残すなんて面倒だ』という人には、コミュニケーションそのものを、電子メールですればいい」と牧野氏は説明。上長から部下への指示や、業務委託先への指示などを電子メールに変えるだけで、「それを保持すれば、記録が取れるようになる」(同)

 牧野氏は、電子メールの利用について「保存している企業は多いだろうが、正しい保存状態の企業は少ないのではないか」と指摘する。正しい保存状態とは、「改ざんできないような仕組みを作っている」ということだ。タイムスタンプやアクセス管理など、改ざんできない仕組みを作る技術はそろっている。内部統制は外部に対して何も起こっていないことを証明するのが重要であり、「電子メールを改ざんできないように工夫するだけでも大きな意味を持つ」(牧野氏)、

 最後に牧野氏は、企業から「いつ内部統制を始めるべきか」と尋ねられることが多いという話を紹介。その回答は「企業が何をするか自ら決めた時」だという。内部統制の整備は、企業自身が「自社にとって最優先で整備すべき問題点は何かを明らかにしないと始まらない」と主張した。