<b>写真1 響タグの最終試作品</b> サイズは9cm×2cm。ほかに幅約15cmのダイポールインレットもある。
<b>写真1 響タグの最終試作品</b> サイズは9cm×2cm。ほかに幅約15cmのダイポールインレットもある。
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 日立製作所は2006年7月末、経済産業省の委託を受けて開発を進めていた「響プロジェクト」を完了し、このほど報告書をまとめた。2006年5月に完成させた最終(3次)試作品を評価した結果、最大読み取り距離が3mといった目標性能の達成を確認した(写真1)。ICタグインレットの販売価格についても当初の目標通り、月1億個生産時に5円にできる見通しを得たという。内訳はICチップが2.5~3.5円、ICチップにアンテナを付けたインレットの製造費が1.0~1.5円、利益を含む一般管理費が1円程度とする。

 もっとも、開発の当初からUHF帯ICタグの国際標準になると見込まれていた「EPCグローバルのGen 2規格(2006年7月にISO18000-6タイプCとして成立)と相互接続性を持つ」という条件は、完全には満たせなかった。響タグは、最初の試作品(1次試作)において、主にICチップのコスト低減を図るため、Gen 2のエアーインタフェースのサブセットを響仕様と定義し、実装した。その響仕様をISO18000-6タイプCに盛り込むことをISOに提案したが、受け入れられなかった。その後の試作において響仕様を徐々にGen 2に近づていったが、最終試作品でも、UHF帯リーダー間の干渉を防ぐための「ミラーサブキャリア」などは実装できなかった。日立製作所情報・通信グループトレーサビリティ・RFID事業部副事業部長の中島洋氏は、「Gen 2を国際標準にする作業が当初の予定よりも遅れた。あと半年早ければ間に合った」と残念がる。

 だが、Gen 2対応ICタグの開発のめどは立っているという。「響プロジェクトの成果を基に、Gen 2に完全対応したICタグは必ず製品化する」(日立の中島氏)という。日立は9月上旬にも、響タグの製品化計画を正式発表する。響仕様のICタグとGen 2対応ICタグの2本立てになるかどうかは明らかにしなかった。

 響仕様のICタグも、Gen 2対応リーダーに特定のパラメータを設定すれば問題なく通信できる。前述のミラーサブキャリアを使わないといった設定である。響プロジェクトでは実際に、富士通と三菱電機、デンソーウェーブ、日本信号、サクサという5社が独自に開発したGen 2対応リーダーで響仕様のICタグを読み書きできることを確認した。もっとも米シンボル・テクノロジズのGen 2対応リーダー「XR480-JP」など、ミラーサブキャリアを使わない設定ができない製品もあり、そうしたリーダーでは響タグは読めない。響仕様のICタグを張り付けた商品を海外に輸出したりすると、現地で読めない可能性がある。

 なおミラーサブキャリアは、UHF帯ICタグに割り当てられた帯域が26MHzと広い米国では干渉回避に非常に有効であり、一般的に使われている。しかし割り当て帯域が2M~3MHz程度と狭い日本や欧州では効果が低い。

(日経RFIDテクノロジ2006年10月号に報告書の詳細を掲載)