日本のゲーム業界は,産業として独り立ちできるかどうかの分岐点――。このような主旨のことを語るのは,スクウェア・エニックスの和田洋一社長である。和田社長は,コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の会長も務める。記者団との懇談会の場で,ゲーム業界の動向と,IT技術者に向けたメッセージを語った。

 ゲーム,アニメ,マンガは日本が誇る一大産業。こうした見方が一般に普及している。しかし和田社長はゲームについて,「いま産業として確立できるかどうかの分岐点に差しかかっている」と引き締まった表情で語る。

 ゲーム開発のプロジェクトマネジメントやチーム・ビルディング,人材の役割定義,人材育成,映画やアニメなど近隣業界との密な連携,大学や研究所との連携,業界内でのノウハウ/方法論/人材の環流など,産業として発展するための仕組みが確立していないと和田社長は指摘。産業として回り始めた米国の状況を紹介しつつ,国内の問題点を強調した。「すでに米国のゲーム業界は,ハリウッド(映画業界)との連携を強化し始めた」(和田社長)。和田社長が挙げた問題点は,企業情報システムを扱うIT業界の問題と似ている。

 また和田社長は「ゲーム業界は優秀なIT技術者が目指す就職先としては,魅力的ではない」と指摘する。「米国では,ゲーム業界は力のある技術者が目指す,非常に魅力的な就職先になっている」。

 ゲーム・プランナーだけでなく,IT技術者の力が必要な場面が増えているという。例えばネットワーク・ゲームでは強固なシステム・インフラの設計や運用管理が求められる。「ゲームのイノベーションには技術が不可欠。技術がすべてではないが,技術がテコになって新しいもの(ゲーム)が生まれる。技術に立脚しないイノベーションなどあり得ない」と和田社長は技術の重要性を説く。