写真1 東京工業大学 学術国際情報センターの松岡聡教授
写真1 東京工業大学 学術国際情報センターの松岡聡教授
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写真2 TSUBAMEの一部
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写真3 TSUBAMEをWebブラウザ経由で利用しているところ
写真3 TSUBAMEをWebブラウザ経由で利用しているところ
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 東京工業大学が学術国際情報センターに導入したスーパーコンピュータ「TSUBAME(Tokyo-tech Supercomputer and UBiquitously Accessible Mass-storage Environment)」は、2006年6月に発表された世界のスパコン・ランキング「TOP500」で7位に食い込んだ。NECがシステム・インテグレーションを担当し、米サン・マイクロシステムズのサーバー「Sun Fire X4600」とNECのストレージ装置を導入している。TSUBAMEの責任者である、同大学の松岡聡教授(写真1)に、導入の経緯と活用方法について聞いた。

--TOP500において世界で7位、日本で1位となった。

 まずは、地球シミュレータを抜くことができたのがうれしい。これは、私が2年前から公言していたことだ。

 TSUBAMEは地球シミュレータのような専用機ではなく、汎用的なサーバーを集積して実現した。米AMDの64ビット・プロセサ「Opteron」を搭載したSun Fire X4600をクラスタ状に655台接続している(写真2)。プロセサは合計で5240個。Opteronはデュアルコアなので、コアの総数は1万480個となる。TOP500が指定するLINPACKベンチマークで、TSUBAMEは38.1テラFLOPSをマークし、世界で7位に食い込めた(編集部注:1テラFLOPSは毎秒1兆回の浮動小数点演算を実行できる能力。地球シミュレータは35.8テラFLOPSで世界10位)。

--そのように大きな計算能力が実際に必要なのか。

 TSUBAMEは多くの利用者に使ってもらうため、非常に高い処理能力を必要としていた。東工大の学生や教員であれば誰でも使える。「少数のユーザーが利用するもの」というスパコンの概念を打ち破りたかった。

 学生に早い段階で使ってもらえれば、コンピュータ教育の裾野が広がる。今や、文科系の学生でも、シミュレーションなどでスパコンを必要としている。これを後押しするため、TSUBAMEは初心者でも使いやすいように、さまざまな工夫をしている。例えば、計算の指示をWebブラウザからできるようにしている。計算結果の検証も同様だ(写真3)。

--なぜ、汎用サーバーで構築したのか。

 何百億円もの予算があれば、専用機を一から開発することが可能かもしれない。しかし、予算には限りがあるし、実際にスパコンそのもので国から予算を獲得するのは難しくなっている。そこで、汎用サーバーを駆使し、導入コストを抑えた。

 スパコンの投資対効果を最大限に高めるため、汎用サーバーならではの新たな活用法も考えている。

--具体的には、どのように活用していくのか。

 スパコンは、サーバー群を集約したデータセンターのようなもの。TSUBAMEの能力の一部を、学内業務の処理に振り向けることを考えている。約1万のプロセサ・コアのうち、100個もあれば十分に足りるだろう。仮想化技術を活用すれば、より効率的に運用できる。

 その一例として、学籍管理への適用を考えている。また、シン・クライアントのサーバーとして利用することも可能だ。Microsoft OfficeなどアプリケーションをTSUBAMEの上で実行し、職員のシン・クライアントには編集画面だけを表示する。

 学内でも、一般業務をスパコンで処理することに対して異論があるのは確かだ。しかし、今後はスパコンの投資対効果(ROI)を真剣に考える必要がある。

--国内メーカーのスパコン開発力をどのように見ているか。

 最近は世界のメーカーとの競争が激烈になっており、TOP500を見る限り日本メーカーの存在が薄れてきている(編集部注:5年前はTOP500に、NECが18、日立が16、富士通が15の合計49システムがランクインしていた。しかし、最新の2006年6月時点では、日立が6、NECと富士通がそれぞれ4、日立/富士通、NEC/サンがそれぞれ1と、合計16システムに減少した)。

 日本のメーカーはスパコンを、企業向けのサーバーと連続的な市場としてはとらえていない。特殊なマシンとしてと考えている。これに対して、IBMやデル、サン、ヒューレット・パッカードなど、米国メーカーは企業システムの延長線上に位置付けている。汎用サーバーを並列に接続し、性能を上げている。

 日本のメーカーも光配線の技術や省電力など、スパコンに応用できる技術を多く持っている。それをきちんと生かしていくべきだろう。