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 米マイクロソフトが2007年初めに一般への出荷を予定している「Windows Vista」には、新たな色管理技術が搭載される。「Windows Color System(WCS)」だ。キヤノンの「Kyuanos(キュアノス)」という色管理技術をベースに開発された。WCSは、既存の色管理システムと比べてどのように進歩するのか。米マイクロソフトのカラーアーキテクトである、マイケル・ストークス氏に聞いた。

■Windows Vistaで、色管理システムを刷新する理由は?

 ここしばらくの間に、色管理に対する人々のフラストレーションが少しずつたまってきている。一般消費者やビジネスマンは、ディスプレイで見た色と印刷物の色が違うなど、色合わせがうまくいっていないと感じていることがある。またプロの写真家や映像の専門家などにとっては、現行の色管理システムであるICCプロファイル(International Color Consortiumが策定した色管理に関する仕様)は、扱いづらい面がある。ICCは柔軟性がある半面、自分が思うとおりの色が再現できないとき、解決するのに骨が折れるからだ。

 既存の色管理技術として重要なものは大きく2つある。一つは、テレビの色空間をベースに作られた「sRGB」だ。sRGBのメリットはシンプルなことだ。ただ、これだけでは柔軟性に欠けるというデメリットがある。またCRTを基準に作られたものなので、色空間にも限りがある。1998年に登場した「Adobe RGB」によってグリーン部分などの色空間は広がったが、シンプルな半面柔軟性に欠ける性格はそのままだ。

 もう一つは、1993年から94年にかけて策定されたICCプロファイルだ。各デバイスの色の特徴を「プロファイル」というメタデータとして記述し、デバイス本体から独立させる。この方法は柔軟性があり、プロフェッショナルには広く使われている。ただし、複雑だという問題がある。

 こうした背景があって、今から4~5年前に、プロの写真家やハードウエアメーカー、ソフトウエアメーカーなどから、新しいソリューションを実装できないかという要請を受けた。そこで、新しい色管理システムの開発に乗り出した。

■エンドユーザーにとって、WCSはどのようなメリットをもたらすのか。

 Vistaのリリース後、すぐにエンドユーザーがメリットを感じることは少ないかもしれない。我々は、開発者にとっての基盤作りを優先してきたからだ。WCSに基づいたデバイスやアプリケーションが登場してくれば、エンドユーザーも素晴らしさを実感するだろう。

 ただ、エンドユーザーが簡単にメリットを実感できることが2つだけある。一つは、色に関する設定が一元化されること。Windows XPではバラバラに存在していたが、Windows Vistaでは一つのパネルで操作できる。

 もう一つは、Windows Vistaのプレミアムロゴが付くことだ。プレミアムロゴが付いている製品は、WCSに対応していることが保証されている。ロゴが付いているプリンターやプロジェクター、ディスプレイなどを選べば、特別な設定をしなくても、買ってきてすぐに、優れた色再現を体験できるだろう。

■WCSの技術的な特徴は?

 主な特徴は、モジュール化と透明性の高さだ。まずモジュール化によって複雑さを軽減し、拡張性を高めた。WCSでは、色管理の処理を細かなモジュールに分割して実行するアーキテクチャーを採用している。これまで一つだったプロファイルも、複数に分割した。それぞれ拡張が容易なので、カスタマイズが楽にできる。例えば独自の処理を加えたい場合にも、自分のデバイスに関連する部分だけを追加すればいい。

 もう一つは透明性だ。プロファイルについても、内部処理についても透明性を高めている。例えば内部アルゴリズムをMSDNで公開しているし、内部的な開発仕様についても、機密保持契約を結んだハードウエアやソフトウエアのメーカーに、2年半にわたって公開してきた。またガマットのマッピングや、色を人間の視覚特性に合わせる処理についても、学界での調査結果や業界標準などにできる限り合わせている。

 なお、互換性には非常に気を使っている。既存のアプリケーションやデバイスも、全く変更を加えずに動作する。

■色空間も広がると聞いたが、scRGBをサポートするという理解でよいのか。

 フォーマットとしては、scRGBを扱えるようになる。ただデバイスにはそれぞれ特性があり、scRGBの広大な色空間のすべての色を表現できるわけではない。我々は、人間が見ることのできる色を再現することに力を入れた。内部的には浮動小数点による演算をサポートし、人間の目で見ることのできる色を細かく表現できるようにしている。

■なぜキヤノンと提携したのか。

 彼らが優れた技術を持っていたからだ。2002年からひそかに彼らとパートナーシップを組み、技術開発を進めていた。キヤノンのKyuanosをベースにこれをさらに発展させ、オリジナルな技術を生み出した。それを2005年に初めて発表した。

 キヤノンは、最先端のカラーサイエンス技術を提供してくれた。具体的に、キヤノンの技術のどの部分を使ったかは話せない。ただ、さまざまなデバイス間で色を一致させるために、彼らが取り組んできたことが役立ったのは事実だ。

■WCSを標準化する予定はあるか。

 現段階ではその予定はない。標準化は非常に時間のかかる難しい作業だ。自社の技術としておいた方が、メンテナンスが迅速にできるというメリットもある。標準化した結果、技術に改良を加えるのが難しくなる事態は避けるべきだ。だが、オープン化に対する要望が高いことも理解している。

 プロファイルのフォーマット(XMLスキーマ)はライセンスフリーで公開しているので、どんなデバイスでも自由に利用できる。また内部の処理についてはMSDNで明らかにしている。これらによって、オープン性は確保できていると考えている。

【用語解説】

●色管理:ディスプレイ、プリンター、スキャナーなど異なる機器の間で、同一の色を扱えるようにするための仕組み。カラーマネジメントともいう。

●色空間:色を規定し、数値化して表現するための体系のこと。カラースペースともいう。

●scRGB:sRGBを拡張し、より多くの色を滑らかに再現できるようにした色空間。

●ガマット:各機器で再現できる色の領域のこと。