写真1 ソフトバンクBBのPLCの実験風景<BR>電波暗室ではなく,一般的な環境の下で実験している
写真1 ソフトバンクBBのPLCの実験風景<BR>電波暗室ではなく,一般的な環境の下で実験している
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写真2 実験で利用した3種類のケーブル&lt;BR&gt;左から未対策のケーブル,チョーク・コイルと金属テープで対策したケーブル,シールド・スリーブを被せたケーブル
写真2 実験で利用した3種類のケーブル<BR>左から未対策のケーブル,チョーク・コイルと金属テープで対策したケーブル,シールド・スリーブを被せたケーブル
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写真3 シールド・スリーブを電力ケーブルに被せることで漏えい電波を約10dB低減できる
写真3 シールド・スリーブを電力ケーブルに被せることで漏えい電波を約10dB低減できる
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 ソフトバンクBBは,電力線通信(PLC)技術の実証実験を公開した。同社は,7月14日に実証実験の開始を発表済み(関連記事)。東京・汐留にあるソフトバンクBB本社ビル内の一室に設備を設置して,10月31日までの期限で実証実験を行っている。

 PLCに取り組む狙いは,「電力線通信を活用して,無線LANでは電波が届かない離れた部屋でもブロードバンド接続できるようにしたい」(菅原裕樹ネットワーク本部IPモバイル技術部システム検証グループマネージャー)というもの。同社はADSL(asymmetric digital subscriber line)に無線LANルーターを組み合わせた「Yahoo!BB無線LANパック」を提供しているが,カバーしきれない部屋があるというユーザーからの声に上がっていたという。

 しかし電力線通信は,航空無線や短波放送,アマチュア無線などに干渉する電波を生じさせる可能性が指摘されている。また,通信品質の安定性にも一部で疑問の声が上がっていた。そこで「まずスループットがちゃんと出るか確認する必要がある。それに,Yahoo!BBのサービスが原因で近隣とのトラブルに発展するような事態は避けたい」(菅原マネージャー)と判断し,今回の実証実験に踏み切った(写真1)。

 通信品質については,「LANとしての速度は,ほぼ安定して数十Mビット/秒は出る。WAN側がADSLならば十分なスループットといえる」(菅原マネージャー)と満足できる水準にあるとの評価を下した。

PLCモデムからコンセントまでのケーブルに対策

 電力ケーブルから漏えいする電波の低減については,「我々が,家庭のコンセントの“裏側”にある電力線を張り替えるような措置はできない」(菅原マネージャー)として,PLCモデムからコンセントまでのケーブルに対策を打つ。具体的には,(1)金属製テープでケーブルを被覆した上で,漏えい電波の主原因となるコモン・モード電流を遮断する「チョーク・コイル」を付加する,(2)導電性の繊維を編んだ「シールド・スリーブ」をケーブルに被せる,といった2種類の方法を取る(写真2)。

 現時点での最有力は,シールド・スリーブを電力ケーブルに被覆させる方法。15M~28MHzで約10dBの低減(約10分の1)を期待できるという(写真3)。また「見栄えも悪くないし,自動車用の製品を流用できれば安く済む」(菅原マネージャー)という点もプラスとしている。

 ただし,「商用化するかどうかは未定」(菅原マネージャー)と慎重な姿勢を崩さない。

 今回の実証実験で漏えい電波が低減することが示されたのは,PLCモデムからコンセントまで。コンセントの裏側にある家庭内の配線は対象外だ。「壁に埋まっている分,ある程度漏えいを抑えられるとは期待している」(菅原マネージャー)としているが,結論は出ていないのが現状だ。

 さらに干渉以外の問題もある。「代表的な通信規格だけで3種類ある。互いの信号をノイズと見なすため,別の規格に対応した製品同士は共存できない」(菅原マネージャー)。ユーザーがどのような製品を購入するかは,通信事業者がコントロールできないため,この部分もネックになる可能性があるとしている。なおソフトバンクBBは,採用した通信規格やPLCモデムのメーカー名を非公開とした。