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 2006年7月27日にマイネット・ジャパンが開始したソーシャルニュースサイト「newsing」(関連記事)。さまざまなニュースサイトやブログからユーザーが記事のタイトル、URLなどを持ち寄り(同サービスではピックアップすると呼ぶ)、お互いに投票したりコメントしたりすることで、議論が活発になった記事ほどランキングの上位に表示するというサイトだ。ユーザーにとっては話題のニュースを一覧できるメリットがある一方、編集権をユーザーに委ねているため、リスクもある。同社の上原仁社長に同サービス開始の狙いを聞いた。

■newsingを始めた背景は。

 一言でいえば、現状のRSSはニュースや情報をきっちりと整理するには不十分な言語だと思ったからです。今までも大量に発生した情報を、RSSに入っているメタデータをベースにして整理する方法はいくつかありました。ブログ検索みたいなものも一つですし、RSSにキーワードが含まれていたらそれをアグリゲーションするようなサービスも出てきました。ただし、実際のところRSSにあるメタデータだけでユーザーが本当に必要としている整理の度合いまで持って行くのは難しいわけです。端的にいえばタイトルと日にちと要約とそのくらいですよね。ニュースやブログが大量に生成されていくなかで、自分自身も追いつけない状態になってきていました。自分たちにとってちょうどいい形で整理されたメディアや仕組みが作っていけないか。もっと言えば、自分たちと近い感覚を持った人たちが同じ場所に集まって、使っているうちに勝手にちょうどよく整理、編集されていくプラットフォームが作れないか。それがnewsingを作ろうと思ったきっかけです。

■どういったユーザーをターゲットにしている?

 アンテナの高いビジネスパーソンが対象です。普通に言えば、日本経済新聞や日経ビジネスを読んでいるような人でしょうか。年齢は20歳代後半から30歳代前半くらい。ここでちょっと、考えてみてください。8月2日の夜、ビジネスパーソンにとって必要だった情報を。おそらく亀田の試合に対する判定だったり、その背景を深堀りしたニュースだったのではないでしょうか。newsingでも、亀田興毅の試合結果のニュースやブログなどがずらりと並び、議論が白熱していました。これらのニュースは日本経済新聞や日経ビジネスにはあまり載らない情報かもしれません。しかも、ビジネスパーソンにとって、年がら年中、ボクシング情報をウォッチするなんてことはできないですよね? ただ、自分と感覚の近い人がそういった情報を持ってきて、みんながそれを必要だと判断したら、ランキングが上がってトップニュースになる。一方で、必要だと思っているニュースがいつまでも必要であり続けることはなく、また徐々に入れ替わっていくわけです。

■アンテナの高いビジネスパーソンをどう集める?

 私はIT業界や金融業界、経営、キャリアに関する旬な話題について議論を交わす「RTCカンファレンス」の運営にかかわっています。ここの参加者はアンテナの高いビジネスパーソンが多く、まさにnewsingが対象としているユーザー層です。この参加者の人々に、まず、newsingのテスターとして参加してもらうことが重要でした。コミュニティの性格は最初のコアユーザーが形成していくものだと思っていますから。あとは対象とする属性をそう壊さずに集めていけると思っています。ある程度形成されたコミュニティに突然、別の属性を持った人が入ろうとしても面白くないですよね。

■対象を絞りたいのであれば招待制という選択肢もあったのでは? 誰でも自由に登録できるのはなぜか。

 このサービスは“ニュース”という言葉に引かれてくるユーザーをまずは集めたかったんです。招待制にしてSNSの機能を最初から提供すると、恐らくニュースSNSなどと呼ばれていたでしょう。このサービスをソーシャルネットワークサービスとしてとらえられた瞬間、「mixi」と同じように扱われ、もうこれ以上そんなものはいらないよとなってしまいます。もちろんSNS的な機能を搭載する準備はしていますが、マーケティング上、必要だと思う機能から順に搭載していくつもりです。

■記事のランキングはどのように付けられるのか。

 議論の活発さを示すポイントと、ピックアップされた記事の新しさでランキングの順位が変動する仕組みになっています。ポイントは、記事そのものをピックアップしたとき、それを閲覧したユーザーが○や×で投票をしたとき、コメントを付けたとき、記事リンクをクリックしたときに加算されます。それに記事の新しさを加味するわけですが、どれだけの時間で下げていくかのバランスが難しい。これは常に私たちでチューニングしています。

■ランキングに手を加えるということか。

 ランキングやピックアップされた記事に私たちが直接手を加えることはしません。newsingは編集作業をユーザーに委ねる「CEM(Consumer Edited Media)」です。世間では「CGM(Consumer Generated Media)」という言葉が流通していますが、あまりにもGenerateされるものが多すぎますから、編集権も完全にユーザーに委ねているんです。

■ユーザーに編集権まで委ねる怖さもあるのではないか?

 怖いか怖くないかといわれれば、そりゃ怖いですよ。当面の収入は広告収入を目指していますが、アダルト関連の記事やスパムが正直怖いんです。機能として、「problem?」と書いたボタンを用意していて、ユーザーが問題だと思ったらそれを投票することもできるようにしています。一定数の問題があるとカウントされたピックアップ記事については削除します。私たちが、こうしたユーザーからの指摘もない記事を意図的に削除することはありません。

 ただ、ターゲットとしているユーザー層もそうですし、そもそもの設計の段階で、できるだけ“荒れないような”プラットフォーム作りを心がけたつもりです。例えば、人々の意見が○と×で整然と並んでいると、なかなか荒らしにくいですよね? いろんな意見が混在して分かりにくいときに、荒らしが起きやすいと思うんです。あとは事業者側としては、ユーザーさんを信じるしかないですね。

■市民記者によるメディアを目指す「オーマイニュース」、ユーザー参加型のニュースサイトを目指す「iza!」など、ニュースサイトに動きが見られるが。

 既存のマスメディアからコンシューマーを取り込もうとする動き、インターネットとコンシューマーをベースにマスメディア的な役割を担おうとする動き、そしてユーザーに編集権まで委ねてしまう私たちのような動き。大きく3つの動きがあると思います。これは一つに収れんされていくものではなく、今後もそれぞれ広がっていくものだと思います。一つ言えるのは、私たちがやっているサービスは、既存メディアとそもそも役割が違うということ。1次情報を発信する既存メディアを超えようとは思っていません。オーマイニュースよりユーザーに支持されるメディアになりたいとは思いますが。ただ、お互いが変な侵食活動をすると、自分たちの足がすくわれる結果になります。私たちのようなネット屋は、こうして起きている変革にネット屋らしくアプローチしていくつもりです。

■今後の展開について教えてほしい。

 newsingで培っていくプラットフォームをほかに展開していく計画はあります。例えば、newsingの軸をちょっとずらしたサービス。ニュースではなく商品に対して○や×を付けるようなサービスも提供可能でしょう。企業による商品のマーケティング調査に活用することだってできます。そのほか、社員同士でピックアップしたニュースクリップを共有するといった、企業内のナレッジマネジメントとして活用することも可能です。ただし、今のところそういう営業活動はしていません。このプラットフォームはまだ完成したとは思っていませんから。年度内をめどに完成に近づけていければと思っています。