「日本からの貢献が急増しており,パッチの5%は日本から投稿されている」---LinuxカーネルのメンテナでありLinus Torvaldsの右腕とも呼ばれるAndrew Morton氏はこう語る。OSDL-Japan Linux Symposiumのために来日したMorton氏と,同じく同シンポジウムのために来日した,Linuxカーネル開発者であり仮想マシン・ソフトウエアXenの開発にもかかわっているChris Writes氏にLinuxとXenの開発の現状を聞いた(聞き手はITpro編集 高橋信頼)
---XenはLinuxカーネルにとってどのくらい重要なのでしょうか。
![]() Andrew Morton氏 [画像のクリックで拡大表示] |
---Linuxカーネルへの日本からの参加は増えていますか。
Morton氏:急増しています。現在,パッチの約5%は日本からのものになっています。非常に素晴らしい仕事をしてくれています。
---Xenの実用製品やサービスへの適用状況は。
Chris Writes氏:既に製品(Linuxディストリビューション)にも取り込まれており,実際に使われています。バーチャル・マシン上にバーチャル・ホスティングを行うといった例はあり,そういったことに使いたいという要望も来ています。
---Xenの開発への日本人の参加状況は。
Writes氏:日本の技術者から多くのパッチを受け取っています。バグ修正や新機能など様々なパッチがあります。OSDL-Japan Linux Symposiumをきっかけにもっと増えることを期待しています。
![]() Chris Writes氏 [画像のクリックで拡大表示] |
Writes氏:重要なのはアップストリームのカーネルにマージされていくことです。そうしなければ広範に適用されません。
----それはMortonさんの判断になるのですか。
Morton氏:私は仮想マシンの専門化ではありませんから,私がそういった決断をしなければならない局面というのは間違った状況です。私がやるべきことは,ルールやガイドラインに見合ったものであるかどうかを見極めることです。
---Linuxは一つのカーネルで組み込みからデスクトップ,巨大サーバーまでカバーしている,コンピュータの歴史上稀有なOSです。それはなぜ可能だったのでしょうか。今後もそうあり続けるのでしょうか。
Morton氏:人々が求めていたからだと思います。別々のカーネルになればコストもかかります。一つのカーネルであることで,メンテナンスのコストを軽減することができます。
Linuxがもしビジネスであったら,儲かるサーバーに注力する,といった決断をしたかもしれません。しかしLinuxはビジネスではなく,決断はビジネスではなくエンジニアリングに基づいて行われました。そのことも,Linuxが一つのカーネルですべてをカバーしている理由です。
Linuxは一つのカーネル,という機運は今後もさらに高まっていくと思います。
---Linuxカーネルの未来はどうなっていくのでしょうか。2.6の次のバージョンについて何かアイデアは出てきていますか。
Morton氏今のところ2.7の計画はありません。
Linuxに新しい機能を取り込んでいくために新しいバージョンのカーネルを作るとすると,すぐに2年くらいの時間がたっていくでしょうし,開発のリソースが割かれて,効率が低下するでしょう。過去に比べLinuxを取り巻く状況の変化は激しく,新しいカーネルを作るよりも,漸進的に開発を進めていくほうがよいと考えています。
◎関連リンク
◆OSDL-Japan Linux Symposium
◆OSDL-Japan Linux SymposiumでのAndrew Morton氏の講演資料(PDF)
◆OSDL-Japan Linux SymposiumでのChris Writes氏の講演資料(PDF)