21世紀政策研究所理事長・経済評論家の田中直毅氏
21世紀政策研究所理事長・経済評論家の田中直毅氏
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日銀が発表した企業物価指数の推移(2001年~2006年)。電子機器や自動車は長期にわたって安定したマイナス指数を維持している
日銀が発表した企業物価指数の推移(2001年~2006年)。電子機器や自動車は長期にわたって安定したマイナス指数を維持している
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 21世紀政策研究所理事長で経済評論家の田中直毅氏は7月20日,都内で開催された「IT Japan 2006」で講演し,戦略的なIT経営を成功させるための提言を行った。「日本は,部品製造から組み立て,ソリューションに至る複合的な産業構造がうまく融合した世界のモデルケース。各業界の情報を横断的に組み込んだ統合化モデルを作ることによって,より精度の高い予測ができ,日本企業はさらに強くなる」と田中氏は主張し,そのための共通の認識と枠組みが求められていると述べた。

 日本の経済構造は大きな変革期を迎え,経済予測の精度を高めるには,複数の要素(変数)をモデルに組み入れる必要があると田中氏は言う。例えば日米の経済が一体化している今,半導体の需要予測を立てる場合でも,日米それぞれの長期金利や鉱工業生産指数などの経済指標を組み入れた統合化モデルが必要だ。世界規模でサプライチェーンが構築される中,一つの国の経済指標だけではもはや精度の高い予測はできないのである。

 足下の景況判断については,日本経済がデフレから完全に脱却していないとする政府の見方に田中氏は懐疑的だ。「日本経済が回復したのは日本の事業会社に対する信頼があったからで,金融機関が持ち直したからではない。事業会社の経営者は新しい技術・製品を市場に投入し続けており,デフレという感覚は持っていない」。

 実際に田中氏は,日銀発表の企業物価指数のグラフを示し,エレクトロニクス製品や自動車は長期にわたって安定したマイナス指数を維持していると指摘する。日本が世界に誇る電子産業や自動車産業が研究開発によって新製品を次々と市場に投入し,企業競争によって価格が低下するという健全な状況にあるからという。「日本のインテリジェント製品の価格は,『期待インフレ率』の役割を果たす。世界中が日本の価格を見て景況を判断するようになるだろう」(田中氏)。

 日本経済の強さは,部品製造から組み立て,ソリューションに至るまで,相互にうまく連携・複合した産業構造にある。ITを駆使し,各業界の情報を横断的に組み込んだ統合化モデルを作り,高精度な予測をもとに的確な経営判断を下す。これが日本企業が次に目指す戦略的IT経営の姿だ。21世紀政策研究所は情報の取りまとめと枠組み作りに取り組んでおり,各方面に協力を呼びかけている。