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 「時代はいつも変化する。経営とは、終わりのない変革を創造していくことだ」。東京証券取引所の西室泰三代表取締役社長(社長)は7月19日、東京・品川で開催されたIT Japan 2006の特別講演で、こう述べた。

 西室社長の講演テーマは「変革期の経営」。21世紀は変化のスピードがこれまで以上に速くなってきているとの分析に基づき、企業経営における変化への対応の重要性を強調。「経営者にとって怖いのは、変化よりも変化しないことだ」と続けた。

 さらに、「変化は不連続であり、突然に起こる」とした上で、「変化が起きてから行動したのでは、変化に素早く対応することはできない」と断言。「社長であれば、会社の事業一つひとつについて、将来の姿を真剣に考えるべきだ。そうすれば、それぞれの事業について、未来が少しずつ見えてくる。あらかじめ未来への手を打っておけば、変化が起きたときに先端を走っていることになる」と説明した。

 「経営者には、細部に目を配る『虫の眼』、一歩引いて全体を俯瞰する『鳥の眼』、潮の流れをつかむ『魚の眼』、不条理や不合理を敏感に感じ取る『動物の眼』が必要」との持論も披露。「だがやっぱり、人間への尊厳や理解、惻隠の情、思いやりの心といった、『人間の眼』が最も重要。人間の眼を持たない人は経営者として存在すべきではない」と述べた。

 東証の情報化戦略については、「世界に先駆け1982年に株式の売買業務をシステム化するなど、かつては世界最先端を走っていた」との見方を示した。「当時の経営層の勇断だ」と評価する一方で、「だがその後、すべてのシステム化を終えるまでに時間がかかったり、取引所に対するニーズや社会の変化に対応できなかったりしたことで、時代遅れなシステムになってしまった」と振り返った。

 西室社長は「変革の第一歩は危機感を共有すること」との考えに基づき、「世界で競争力のある証券取引所になること、安定した取引サービスを提供することが、生き残りのための緊急な課題だという共通認識を東証の全社員が持つために、社内で対話を続けている」と話した。

 さらに西室社長は講演の最後に、東証が2009年度の完成を目指して進めている次期システムの構築プロジェクトについても言及。「世界でも最も先進的で、拡張性がある最新のシステムを必ず作り上げる。そのシステムを生かして、東証は世界の中で競争力を確保し、日本経済の発展の一翼を担っていく」と宣言した。