写真:下が「デュアルコア Itanium2 9000番台(開発コード名はMontecito)」。上が既存のItanium2
(写真=柳生貴也)。

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 インテルは7月19日,ハイエンド・サーバー向けプロセサであるItanium2の新版,「デュアルコア Itanium2 9000番台」を正式発表した。開発コード名「Montecito」として知られていた製品だ。

 MontecitoはItaniumシリーズで初めてデュアルコア構造を採用した。動作周波数は現行品とほぼ同じ。1チップに2つのコアを持たせることで,処理性能を2倍に高めつつ,消費電力を20%ほど削減したという。米Intelのトマス・キルロイ副社長兼デジタル・エンタープライズ事業本部長は,「デュアルコアの新しいItanium2の性能は2倍,消費電力当たりの処理性能は2.5倍にも向上した」とアピールする(記事の最後にキルロイ副社長のインタビューを掲載)。

 動作周波数が1.4G~1.6GHzのデュアルコア製品5種類と,動作周波数が1.6GHzのシングルコア製品1種類を用意する(表1)。いずれも同日から出荷を開始した。


表1:デュアルコア Itanium2 9000番台のラインナップ


2つのコアとマルチスレッド技術で4スレッドを同時処理

 Montecitoの「EPICアーキテクチャ」では,各コアは3次キャッシュを最大12MB搭載しており,合計で最大24MBになる(ブロック図はこちらの記事に掲載)。以前のItanium2(開発コードはMadison 9M)は9MBだった。

 トランジスタ数は合計で約17億2000万個に及ぶ。製造プロセス・ルールは90nmである(表2)。消費電力は104W。以前のItanium2の製造プロセス・ルールは130nmで,トランジスタ数は約5.9億だった。消費電力は130W。Montecitoの消費電力は前のItanium2よりは少ないが,6月に発表した「デュアルコア Xeon 5100番台(開発コード名はWoodcrest)」の80Wよりは大きい(Woodcrestの関連記事)。

表2:各プロセサの比較


 Montecitoのポイントは,デュアルコアとマルチスレッド技術を組み合わせることで,1つのプロセサで4つのスレッドを並列処理できるようにしたこと。各コアが2スレッドを並列で実行する。各コアは,あるスレッドでメモリ・アクセスなどレイテンシ(遅延)が長い命令を実行している間,別のスレッドに処理を切り替える。これにより,コアが“待ち”状態になる時間を少なくする。

 コア同士は「調停回路(アービタ)」という機構を介してシステム・インタフェースに接続する。調停回路は2つのコアの間で処理の最適化を図る。

 デュアルコア Xeon 5100番台と同じく,仮想化支援機能「VT(Virtualization Technology)」も備える。そのほか,各コアに搭載するキャッシュの信頼性を向上させる「Cache Safe Technology」など,プロセサ全体の信頼性を高めるための新技術を盛り込んでいる。

 インテルが今後特にMontecitoで狙うアプリケーション分野は,大量のデータを扱うシステム。「データベース・アプリケーションやERPはもちろん,経営分析や科学技術計算など特に高速なデータ処理が求められる分野にアピールしていく」と米Intelでサーバー分野のマーケティングを担当するボイド・デービス氏は語る。また,メインフレームに代表されるいわゆるレガシー・システムの切り替えも継続して狙いに定める(NECのItanium搭載メインフレーム「i-PX9000」シリーズは,メインフレームOSの「ACOS-4」,HP-UX,Linux,Windowsなど複数のOSを利用できる)。

 Montecitoは当初2004年に投入予定だったが,インテルは途中でデュアルコアを採用する計画に変更。その代替としてMadison 9Mを投入し,Montecitoの出荷を2005年へと延期した。しかし実際には2005年には出荷できず,ようやく今回の出荷となった。

 インテルは2007年には製造プロセス・ルールを65nmに高度化した「Montvale(開発コード名)」投入する予定。また,2008年にはコア数を4つに増やした「Tukwila(開発コード名)」を投入していく計画だ。

Itaniumは「社会インフラ」になれるか

 インテルはItaniumシリーズに関して,とりわけ日本市場を重視している。

 Itanium搭載サーバーの売れ行きは日本が突出している。米IDCの調査によると,日本では2006年第1四半期(1月~3月),Itanium搭載サーバーの売上金額の比率は,(米Sun Microsystemsの)SPARCプロセサ搭載サーバーの売上金額に対して111%。(米IBMの)Powerプロセサと比べても109%である。世界では,対SPARCは45%,対Powerは42%。これらの数字は単にUNIXの置き換えを表現しているだけでなく,メインフレーム上で稼働するシステムが多く,かつそれがItaniumサーバーに置き換わりつつある日本の状況を端的に示している。

 日本のサーバー・メーカーに眼を転じてみると,メインフレームを開発し続けてきたNECや富士通はもはや“Itaniumなしにはいられない”のが現状である。例えばNECは2004年からメインフレーム「i-PX9900」シリーズのプロセサにItaniumを採用している。富士通はメインフレーム用独自プロセサの開発を続けているものの,実質的にItanium搭載サーバー「PRIMEQUEST」をメインフレームの次を担うマシンと位置づけている。NECと富士通はそれぞれインテルとItaniumについて開発やマーケティング面などで提携関係を結んでいる。

 各メーカーはMontecitoの発表とタイミングを合わせて,Montecito搭載サーバーを相次ぎ投入した。NECは先立つ7月18日に「NX7700i」シリーズを発表(NX7700iシリーズの記事)。そしてインテルの発表と同日の19日,富士通はPRIMEQUESTの500シリーズを発表した(PRIMEQUEST 500シリーズの記事)。両社はハードの2重化を強化し,「従来メインフレームで扱ってきたような業務処理をカバーできる信頼性」とアピールする。

 遅れを重ねてようやく出荷となったMontecitoを待望していたのは日本。こう言って差し支えないはずだが,メーカーからは先行きを不安視する声も聞かれる。NECのある幹部は,サーバー戦略に関する記者発表会の場で「米HPも当社もItaniumには深く関わっており,(Itaniumシリーズを指して)これしかないと見ているが,リスクヘッジは描いている。(i-PXシリーズなどの同社ハイエンド機に)Xeonを載せることも考えている」とコメントした。

 米IBMは実質的にItaniumは採用しない方針を表明している(米IBMのItanium採用方針に関する記事)。米Dellも昨年,ハイエンド・サーバーにItaniumを採用するのを止めた。Itaniumシリーズに対する期待度は,日米限らずベンダーによって温度差があると言える。

 インテルの吉田和正共同社長は,「2ケタ成長が見込めるサーバー市場で,Montecitoは重要な位置を占める。デジタル化が進むなか,サーバーは重要な社会インフラとなる。Xeonでは補えないハイエンドの市場をItaniumシリーズが担っていく」と宣言した。

 Montecitoを含めItaniumシリーズが今後,世界市場における社会インフラとして全面的に受け容れられるかどうか----。それを占う上で,日本市場の動向は大きな意味を持つと言えそうだ。日本で培われつつあるプラットフォームが世界で花開くかどうか,それは日本のメインフレーム・ベンダーが世界で通用するか否かと同義かもしれない。

インタビュー:「市場はMontecitoを求めている」

トーマス・キルロイ 氏
米Intel 副社長 兼 デジタル・エンタープライズ事業本部長



写真=柳生貴也

---- Montecitoがいよいよ正式出荷となった。出荷遅れなどの現象を見て,Itaniumシリーズの先行きを不安視する声もあるようだが。

 確かにMontecitoは当初よりも出荷が遅れたが,(ハード・メーカーなどの)パートナー企業には,信頼性の高いプロセサを提供するという当社のコミットメント(約束)を理解して頂いていると思う。17億ものトランジスタを詰め込んだプロセサには,非常に複雑なテクノロジーが使われている。それだけに,信頼性の確保に力を注いできた。

 UNIXやLinux,Windows,メインフレームOSが稼働する,これほど選択肢の多いプロセサはほかにはない。また,Itaniumで稼働するアプリケーション・ソフトの数は8000以上にも増えた。もちろん,米Oracleや独SAPなど主要な業務ソフトがItaniumで稼働する。アプリケーション・ソフトが増えた背景には,Itaniumプロセサ用ソフトの普及支援団体「Itanium Solution Alliance(ISA)」の活動がある。ISAは2010年までに約100億ドルの活動費用を投入する計画だ。

 Itaniumは今後3世代先まで開発を表明している。Itaniumシリーズの市場は立ち上がったし,市場はMontecitoを求めている。今後もItaniumシリーズは成長する。

---- ItaniumとXeonの位置づけが曖昧に見える部分もある。インテルとしての位置づけをあらためて聞かせてほしい。

 顧客が望むものを実現するコンポーネントを提供する,というのがインテルの立場で,どれを選択するかは顧客やサーバー・メーカーの判断による。例えば(サーバーの台数を増やして全体の処理性能を向上させる)スケールアウト的な考え方のシステムにはXeonが適しているし,(1台のサーバーで処理性能を向上させる)スケールアップ的な考え方のシステムにはItaniumが適している。

 ただインテルとしては,ハイパフォーマンスを求める基幹サーバー,それこそメインフレームの代替機として考えている場合には,Itaniumシリーズを推奨している。Itaniumは信頼性を高めるためのさまざまな技術を投入しており,この点がXeonとは大きく違う。