マーキュリー・インタラクティブ・ジャパン代表取締役社長の石井幹氏
マーキュリー・インタラクティブ・ジャパン代表取締役社長の石井幹氏
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 テスト・ツール大手で米Mercury Interactiveの日本法人であるマーキュリー・インタラクティブ・ジャパン。同社社長の石井幹氏は「日本の技術者は均一に優秀であるため,かえって標準化プロセスが浸透せず,そのことが日本のITの力を弱めている」と主張する。

 Mercuryは,GUI画面の機能テスト・ツール「WinRunner」とC/S型トランザクションの負荷テスト・ツール「LoadRunner」でビジネスをスタートしたソフト・ベンダー。いずれも,業務アプリケーションの開発工程のうち,テスト工程にかかる時間とコストを削減する狙いを持つ。その後,開発工程全体のプロセス標準化から,運用工程や企業経営にまで品質管理のカバー範囲を広げてきた。テスト担当者がテストの自動化を図れるだけでなく,CIO(最高技術責任者)や情報システム部長が,ダッシュ・ボードの上で開発プロジェクトごとの品質を把握できるという流れである。

 2006年現在では,機能テストのスイート製品「Quality Center」と負荷テストのスイート「Performance Center」に加え,本番稼働環境の性能監視を目的とする「Business Availability Center」(BAC)も出荷済み。国内では未出荷だが,要求管理や予算管理,変更管理といったITガバナンス(統制)に特化した可視化スイート製品「IT Governance Center」もラインアップする。システム資源の依存関係を管理できるため,システムに変更を加えることによる影響とメリットを把握できるなど,経営意思決定に役立つとしている。

CIOは俯瞰的な話より具体的な機能に関心

 国内市場での同社製品の浸透について石井幹社長は,「開発現場における長年のLoadRunner人気に押される形で食い込んでいるケースが実際には多い」と冷静に分析。この一方,同社の戦術はまったく反対であり,経営層であるCIOから攻め込むというもの。「ユーザー企業のCIOに対して企業組織全体の品質を管理する重要性を説く」(石井氏)。カット・オーバー以前のシステムであれば開発に携わる部門に閉じた問題だが,カット・オーバー後の品質はCIOの問題である。

 石井氏がユーザー企業のCIOにアポイントメントを申し入れると,大抵の場合は会ってもらえているという。石井氏が経験したCIOとの対話には,ある一つの傾向が見られるという。「CIOに対して提案する際には,まずは俯瞰的な話をする。ところがCIOはすぐに具体的な話をしてくる」(石井氏)。問題点が見えているものの,解決できていないケースが多いという。

 CIOとの対話は,対話が始まってすぐに,「具体的にどう動くのか」,「この機能はあるのか」,「すでにこのシステム監視ツールを入れているが,足りない部分を補えるのか」---など,現実に即した具合的な話になるという。CIOからは,「こういう話を聞きたいから,これについての情報を次回までに持ってきて欲しい」という具体的な宿題をもらうのが常である。

 ユーザー企業が導入するツールのうち,もっとも需要が高い分野は依然としてQuality Centerがフォーカスする“テスト工程管理/機能テスト分野”であり,これにPerformance Centerがフォーカスする“負荷テスト分野”が続く。BACがフォーカスする“性能監視分野”の需要は,絶対数こそ少ないが伸び率はもっとも大きい。本番稼働環境における性能監視が進んでいるユーザー企業はまだ少ないというわけだ。

日本固有の文化が崩れて標準化が進む

 マーキュリー・インタラクティブ・ジャパンの売上比率は,ワールドワイドの3~5%に過ぎない。ワールドワイドでは過去10年間,平均で年率30%の成長を続けており,売上額はまもなく10億ドルに達する。日本国内はワールドワイドの成長には追い付けていない。今後はこれを改善し,ワールドワイドの成長率である30%の成長率を目指す。これまで日本には「品質管理ツールが浸透し難いという特有の文化があった」(石井氏)と振り返る。

 同社の見解では,北米と比べると日本はテスト・ツールに対する見方が異なる。日本の技術者は均一に優秀であるため,ツールを用いたプロセスの標準化に馴染みが薄い。「日本のIT開発は,阿吽(あうん)の呼吸で成り立つ世界。(ツールによる自動化に対しては)人がやるべきものだ,という意識が強かった」(石井氏)。国内IT開発プロジェクトには“見える化/見せる化”という標準化プロセスがまだ浸透していない。優秀な大手SIベンダーとユーザー企業の結び付きも強く,従来は「結果的にうまくいっていた」(石井氏)だけであるとする。

 石井氏は今後の品質管理ツールの市場性について,「今後のITは,製造業のように品質を問われる。日本企業は徐々に,北米のマネジメント層の考え方に近付いている」と力説。「ITが業務のバックエンドを構築する手段であった従来であれば何の問題もなかったが,今後はユーザー企業みずからが能動的に,戦略的立案ツールとしてITを使うようになる」と展望する。ITがビジネスを支えている現在では,ITに何か不具合が起こると業務が停止する。こうした背景から品質への要求が高まり,ツール導入への追い風となると期待する。

 北米のITが強さを発揮する理由はプロセスが標準化されているからであり,ツールによる標準化が浸透する背景は「能力の不均一」と石井氏は主張する。「メインフレームの時代は均一の時代だったが,今は不均一で力を付けていこうという時代。多種多様な能力が混在する時代には,従来の曖昧なコミュニケーションは通用しない。インドのIT企業を訪問する機会があったが,国際舞台で勝負している彼らは,コミュニケーションに関して明確なプロセスと方法論を確立していた。自分たちに仕事を任せたらどういう出力を出せるかを明確に示すのだ。明確に描ければビジネスにならないからだ」(石井氏)。