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 独立行政法人の理化学研究所(理研)は、理論ピーク性能が1ペタFLOPS(1秒間に1000兆回の演算を行う能力)のスーパー・コンピュータ「MDGRAPE-3」を開発した。分子が引き合う力を解析する分子動力学用のために開発したスパコン。用途を限定した専用機であるものの、汎用スパコンの世界ランキング「TOP500」の最高速機に対し約3倍もの性能を実現している。開発の中心人物である理研 ゲノム科学総合研究センター システム情報生物学研究グループ高速分子シミュレーション研究チームの泰地真弘人チームリーダー(写真1)に、同スパコンの実現技術と具体的な活用方法について聞いた(聞き手は市嶋洋平

−−MDGRAPE-3を開発した経緯について教えてほしい。
 MDGRAPE-3は第3世代にあたるシステムだ。第1世代は天文学用の計算機として1995年に開発した。
 第2世代は天文学から分子動力学に転換し、理研で開発が進めた。無数にある星同士の引力計算を、分子同士が引き合う力の計算に応用している。16ギガFLOPSの性能の専用チップを開発し、スパコンのシステムとしては75テラFLOPSを実現していた。
 今回は2004年に開発したチップを適用し、スパコンのシステムとして稼働させた。専用チップの性能は1個あたり200ギガFLOPSで、全体で1ペタFLOPSの論理性能を実現している。

−−1ペタFLOPSという性能は世界最高速の汎用スパコンをはるかに上回る。性能は実際に必要なのか。
 処理性能は必要だ。現在、理研ではMDGRAPE-3を文部科学省が2002年に開始したタンパク質の機能を解明する国家プロジェクト「タンパク 3000 プロジェクト」に活用し始めた。タンパク質の構造を解明し、効果的な新薬をより短期間で創り出すのが目的だ。その際に大規模なシミュレーションが必要となる。処理性能が向上すれば、タンパク質にまつわる様々な事象をリアルタイムでシミュレーションできるようになる。
 例えば、HIVのウイルスに効く成分を持った薬を開発するために活用している。医薬品の候補となる物質が、分子や原子のレベルでどの程度くっつきやすいのかリアルタイムで見極められる(写真2)。

−−様々な用途に使える「汎用スパコン」では実現できないのか。
 コストと実現できる性能のバランスを考慮し、専用機として開発している。実際には、専用機といっても汎用のプロセサと組み合わせている。
 具体的には、MDGRAPE-3チップを搭載した分子間力計算用のサーバー群と、インテルの汎用プロセサ「Xeon」を搭載したサーバー群を連携させている。Xeonのサーバーがホストとなって、処理結果を整理して画面に表示する。MDGRAPE-3チップは約4800個、Xeonは約1万9000個、それぞれ使っている。
 開発費としては、MDGRAPE-3のチップを搭載した専用計算機の部分が人件費を含めて10億円だ。Xeonを搭載したホスト部分については、日本SGIから提供を受けている。

−−MDGRAPE-3のチップはどのようにして高速化を図っているのか。

 特定の処理を一度に実行することで高速化している。簡単に言うと、N1、N2、N3・・・、といった座標データがあったとしよう。MDGRAPE-3ではそれぞれのデータに対して、Aという簡単かつ同じ処理を一度に実行できる。それぞれの座標データを取り出してAという処理を実行するのに比べて格段に処理が速くなる。