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 「RIA(Rich Internet Application)を作ることに関心があれば,Flexを使わない理由は考えられない」。米Adobe SystemsのEnterprise & Developer Business Unit担当シニア・ディレクタ,Jeff Whatcott氏は自信満々にこう語った。

 アドビシステムズは2006年6月29日,リッチ・クライアントを実現する開発環境の新版「Adobe Flex 2.0」とFlashアプリケーションのランタイム新版「Adobe Flash Player 9」を発表した。Flash Player 9とFlex 2.0英語版は2006年6月から,Flex 2.0日本語版は2006年8月から出荷する。Whatcott氏は,Flexはバージョン2.0によって大きく進化し,小さなWebアプリケーションから本格的な企業システムまで幅広く活用できる開発環境になったと強調する。

 Whatcott氏によると,Flex 2.0の改善点は大きく三つある。一つ目は,Flashアプリケーションのパフォーマンスを大きく改善したことだ。Flash Player 9では,ActionScriptのバイトコードをネイティブ・コードに変換するJust-In-Time Compilerを搭載したことで,アプリケーションの実行速度が最大10倍高速になったという。

 二つ目の目玉は,データベース接続/管理用サーバー・ソフト「Flex Data Services 2」。これは,クライアントとバックエンドのデータベース・システムなどとのスムーズな連携をもたらす。例えば,サーバーから定期的にデータを配信して,クライアントでリアルタイムに変動するグラフを描画するといったPush型アプリケーションを容易に開発可能になる。

 三ツ目は,オープンなライセンス・モデルを導入したこと。従来は,有償のサーバー・ソフトに含まれていた開発キット(SDK)を,Flex SDKとして無償提供する。また,データサービスのFlex Data Services 2のExpress版も無償にした。Express版は1CPUでの利用に限られるが,それ以外に制限はない。商用での利用も可能だ。つまり,「開発者はFlash Player,Flex SDK,Flex Data Services 2 Expressをすべて無償で入手でき,実用的なRIAの開発が可能になる」(Whatcott氏)。これらの改善点は,Flexが主に企業システムに浸透するために,大きな推進力になるとWhatcott氏は指摘する。

 同氏は続けて「Flex 2.0は開発者支援の面でも力を入れている」と力説する。誰でも入手可能なベータ版SDKの提供など,Flex 2.0はオープンに開発を進め,情報を公開してきた。また,有償のビジュアル開発ツールFlex Builderは従来Macromedia Dreamweaverベースであったが,新版(2.0)はEclipse対応とした(Flex SDKはコマンドライン・ベースの開発キット)。これは主にJavaなどでWebアプリケーションを開発してきたEclipseユーザーにとって,大きな魅力になるだろう。

 しかし,リッチ・クライアントの取り組みでは,Webアプリケーションのユーザー・インタフェース技術であるAjaxの活用が広がりつつある。これに対して,Whatcott氏は「現状のAjaxをビジネスに応用するには機能,性能,開発効率の点で限界を感じるはずだ。例えば,Flexは様々なグラフ表示,データベースのローカル・キャッシュ,Push型アプリケーション,ベクター形式の画像描画など,Ajaxをはるかに上回る表現力と操作性を実現できる。Ajaxの限界を突破するにはFlex 2.0しかないと開発者は気づくはずだ」とFlex普及の自信をのぞかせた。

 一方で,FlexはAjaxを駆逐するものではなく,現実的には共存/補完する関係になるだろうと,オープンソース系技術の盛り上がりに気を遣う。例えば,AjaxのコンポーネントからFlexアプリケーションを制御し,同一の画面上に共存するといったアプリケーションが考えられる。実際に,米Googleの経済情報サイト「Google Finance」は,テキスト部分などをAjaxで,リアルタイム株価チャートをFlexで構築している。Ajaxを現実的なサイトに応用していこうという気運が盛り上がるほど,こうしたAjax+Flexというハイブリットな事例が増えていくだろうと予測する。「Ajaxの成功はFlexの成功につながる」(Whatcott氏)というわけだ。

 米Microsoftも,次期版Windows(Windows Vista)に搭載予定のグラフィックス・エンジンWindows Presentation Foundation(WPF)で独自のリッチ・クライアントを実現し,Flashに対抗しようとしている。これに関しては,「Flash Playerの普及度に比べれば,Windowsはものの数ではない」と全く意に介さない。「Flash Playerは,OSに依存しないクロス・プラットフォームなソフトであり,全世界の6億台を超えるパソコンやモバイル機器に搭載されている。世界で一番普及しているソフトと言っていいだろう。WPFがこれに追いつくことが可能だろうか?」(Whatcott氏)。