福岡市に本社があるコスモス薬品の店舗
福岡市に本社があるコスモス薬品の店舗
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 「業界に先駆けて始めたポイントカードを、業界に先駆けて止めました」

 2006年5月期、5期連続で増収増益となり、連結売上高が初めて1000億円を突破した九州のドラッグストアであるコスモス薬品の宇野正晃社長は、7月10日の決算説明会でそう語った。

 宇野社長によれば、「毎日のように当店に来てくれるロイヤルカスタマーは、意外なことにポイントカードを嫌う」と分析する。レジでポイントカードのやり取りがあると顧客がレジに並び出し、「会計して家に帰るまでに時間がかかる。当店のご近所に住むお客様の中には、ポイントなんていらないから、すぐに会計して帰りたいという人がたくさんいた。急に薬が必要になって買いに来た時は尚更だ」と指摘する。

 コスモス薬品は今から12年前にポイント還元を始め、2003年4月まで他社と同様に続けていた。だが宇野社長は、2003年5月の個人情報保護法の成立とタイミングを合わせて、ポイント還元を廃止している。これには社員も驚いた。

 ポイントカードがあると、レジ作業が煩雑になって会計に時間がかかるうえ、「ポイントが欲しい人といらない人が必ず出てくるから、お客様にとっては不公平なサービスであると気づかされた。しかも、ポイントはいらないと言う人が、実は当店にとって一番大切な毎日のように来店してくれるお客様だったりする。だから思い切ってポイントカードを止めた」(宇野社長)

 食品の販売比率が売上高の45%以上を占めるコスモス薬品のことを、宇野社長は「大型のコンビニエンスストア」と称する。そんな店舗に求められる最大の顧客ニーズは「急に必要になったものをすぐに買って帰れること」と、宇野社長は判断した。まさしくコンビニに近い発想だ。それにはポイントカードが邪魔だった。

 それよりも普段の価格をいつも安めに設定して、顧客には安心して買い物してもらう。それが定価販売するコンビニとの最大の違いであり、コスモス薬品が選んだ道である。一般にEDLP(エブリデー・ロープライス、毎日安売り)と呼ばれる販売戦略だ。これが当たった。

 コスモス薬品はこの5年間で店舗数を約4倍の196店(2006年6月末時点)まで増やす急成長を遂げている。最近は九州だけでなく、中国・四国地方にも進出し始めた。3年後の2009年5月期までには連結売上高が1800億円、店舗数を310店まで拡大する計画だ。宇野社長はポイントカードを廃止してEDLPに転換した自身の判断が間違っていなかったことを確信している。

 コスモス薬品の今後の成長のカギを握るのはIT(情報技術)だ。宇野社長は「当社はこれまでIT活用で遅れを取っていた」と素直に認める。そこで、この7月には外部から情報システムの専門家を招き入れ、「IT推進本部」を新設した。手始めに、7月からはシステムを使った化粧品3000品目の自動発注を始めた。過去半年間の自動発注の実験で効果を証明できたという。ただし対象商品は在庫回転が遅い化粧品に絞って様子を見る。これだけでも、1店舗当たり0.5人分の作業を削減できる見込みだという。

 宇野社長がIT活用で狙うのは、売価の柔軟な変更だ。今は人手による値づけに頼る部分が大きく、「売価がどの店も同じになっている。本来は周辺の競合状況に合わせて、1店ごとに売価を変えていくべきだが、それにはシステムの支援が必要だった」。それができないため、これまでは「(競合が少ないのに)必要以上の値引きをしていた店舗もあった」と宇野社長は言う。