米国のクリスピー・クリーム・ドーナツの店舗。1937年に設立された米国で有名なドーナツチェーン。ガラスで仕切られた厨房で繰り広げられるドーナツの製造プロセスが売りの1つ
米国のクリスピー・クリーム・ドーナツの店舗。1937年に設立された米国で有名なドーナツチェーン。ガラスで仕切られた厨房で繰り広げられるドーナツの製造プロセスが売りの1つ
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クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの社長に就任した香坂伸治氏。日米マクドナルドでの業務経験を生かし、グローバルブランドの国内でのチェーン展開に挑む
クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの社長に就任した香坂伸治氏。日米マクドナルドでの業務経験を生かし、グローバルブランドの国内でのチェーン展開に挑む
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 企業再生支援などを手がけるリヴァンプ(東京・港)はロッテ(東京・新宿)と組んで、今秋をめどに米国で有名なクリスピー・クリーム・ドーナツの国内1号店を都内にオープンする。2007年3月までにもう1店舗を開設。5年後に30~50店舗まで拡大し、売り上げ100億円を目指す。

 これに先立ち6月26日、資本金2億5000万円で新会社「クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン」を設立した。リヴァンプが30%、ロッテが70%を出資。新会社には、リヴァンプから代表パートナー(共同経営者)の澤田貴司氏と浜田宏氏、ロッテからは重光武雄社長と重光昭夫常務が取締役として就任している。澤田氏は元ファーストリテイリング副社長、浜田氏は元デル日本法人社長という経歴の持ち主。

 新会社の社長には、6月9日に日本マクドナルドを退職した香坂伸治氏が就任した。1961年生まれの香坂氏は、84年の日本マクドナルド入社後、99年から米国駐在員として現地の日本所有店舗を統括。2001年に米マクドナルドに異動して米国での店舗オペレーション・ノウハウを取得。2003年に帰国した後、全店のオペレーションを標準化するビッグプロジェクトのプロジェクトリーダーとして活躍した経験を持つ。今回の新会社では、香坂氏はグローバルブランドを日本でチェーン展開するノウハウを期待される。「1つ1つのお店をお客様にとって最高のものにしながら、店舗オペレーションを標準化する経験を生かせる」と香坂氏は意気込む。

 香坂氏はさらに、クリスピー・クリーム・ドーナツの魅力をこう語る。「米国在住時に、近所にオープンしたクリスピー・クリーム・ドーナツ店に行ったときの経験が衝撃的だった。店内ではガラス越しにドーナツの製造工程を見られる。巨大なコンベヤーで出来立てのドーナツが運ばれてくる様子は、子供から大人まで楽しめる。しかも、ドーナツの温かくて口の中で溶ける食感が素晴らしく、忘れられないインパクトがある」

 一方、澤田氏と元ファーストリテイリング社長の玉塚元一氏が昨年10月に設立したリヴァンプは、ハンバーガーのロッテリア(東京・渋谷)、靴卸のトークツ・グループ(東京・台東)、帽子・ネクタイ卸のアルプス・カワムラ(東京・中央)の再生支援で注目されてきた。これらの再生支援では、リヴァンプ内外の人脈から選んだ新しい経営者と再生支援チームを派遣。3カ月をめどに業務改善と社員のモチベーションの向上をスピーディーに実現した後、長期的成長につながる新たな事業戦略や、社内から次期経営者に成りうる人材を育成できるような人事戦略を打ち出すという手順を踏む。

 リヴァンプのビジネスモデルは、収益の多くを事前に取得した株式の売却やIPO(新規株式公開)に頼るというものだ。しかし、業績面でも組織面でも会社が芯から元気になるまでは、何年かかってもその会社を支援し続けることを経営理念として掲げる。その背景には、再生ファンドであるキアコンを運営していた時に澤田氏が味わった違和感が横たわる。澤田氏は、「資金を預けてくれた人に還元すべくお金を増やすことがファンドの目的。しかし、僕らが一番やりたいのは会社を元気にすること。お金はその結果として得たい」と言う。リヴァンプには現在、この理念に触発された比較的若手のコンサルティング会社出身者などが30~40人ほど在席する。

 今回のクリスピー・クリーム・ドーナツの件は、既存企業の再生支援ではなく、新しい企業の立ち上げだ。従業員は一から集める。確かに、会社を芯から元気にしようとするリヴァンプの組織活性化の手法からは、再生企業でなくても学べる点がたくさんある。新会社の立ち上げでリヴァンプ流がどのくらい有効なのか。ファストフード業界はもちろん、澤田氏・玉塚氏の出身のアパレル業界、浜田氏の出身のIT(情報技術)業界をはじめ、コンサルティング会社や私募ファンドなど多くの目がリヴァンプに注ぐ。

 米クリスピー・クリーム・ドーナツのプレスリリースによると、ダリル・ブリュースタCEO(最高経営責任者)は、「日本は当社の国際展開を広げるうえで、重要な拠点だ」としている。同社は現在約310の直営店と約90のフランチャイズ店を米国やカナダ、オーストラリア、メキシコ、英国、韓国に展開する。韓国ロッテグループの副会長としてクリスピー社とフランチャイズ契約を結び、韓国で9店を既に単独展開しているロッテの重光常務は、「リヴァンプは日本の消費者市場に対する卓越した知識を生かし、優れたパートナーに成ると確信している」との見解を公表した。リヴァンプの小売業での経営ノウハウとロッテの食品ノウハウの相乗効果を狙う。

 また、前出の香坂氏もロッテやリヴァンプとの強力なパートナーシップの重要性を強調する。「現在リヴァンプのオフィスで事業準備をしているが、プロフェッショナルな経営者の資質とは何であるかを日々体感している。会社を芯から元気にするというコンセプトも素晴らしい。今後もリヴァンプ、ロッテの両社と密接な関係を持って臨んでいく」と語る。