ワタミが運営する外食店の1つ、「坐・和民(ざ・わたみ)」。同社の看板業態「和民」と同様に、食事のメニューが豊富な居酒屋である“居食屋”という形態を採る
ワタミが運営する外食店の1つ、「坐・和民(ざ・わたみ)」。同社の看板業態「和民」と同様に、食事のメニューが豊富な居酒屋である“居食屋”という形態を採る
[画像のクリックで拡大表示]
ワタミが毎週火曜日に都内にある本社ビルで開催する「業務改革会議」。全国各地からエリアマネジャー以上の社員200人以上が集まり、前週の店舗での課題を議論し、解決策を導く
ワタミが毎週火曜日に都内にある本社ビルで開催する「業務改革会議」。全国各地からエリアマネジャー以上の社員200人以上が集まり、前週の店舗での課題を議論し、解決策を導く
[画像のクリックで拡大表示]
 “居食屋”の「和民」や「坐・和民」で知られるワタミは、早ければ繁忙期となる12月までに同社独自の「店舗支援システム」を強化する。565店を超す直営店にグループウエアを導入し、本部と店舗の間でやり取りしている各種の報告書や依頼書をワークフロー化。店長の負荷を軽くし、本部とのコミュニケーションを深めるのが狙いだ。

 ワタミは1000店体制の早期実現を目指しており、今回のシステム強化はその布石である。ただし、情報システム部の原田哲也部長は、「店長業務は何でもIT(情報技術)化すればいいわけじゃない。アナログ部分とのバランスが重要だ」と強調する。実際、計12年間もの店長・店員経験のある原田部長をはじめ情報システム部のスタッフが、「店長の“個店の経営者としての能力”を磨くにはどうしたらよいか」という視点で、在るべきITの姿を検証している。

 原田部長は、「店舗の業務品質を下げずに、人件費や販促費をどう削ったらいいか。毎日電卓をたたいていたころのほうが、店長はよく考えていた傾向がある」と指摘する。
 

店舗支援システムと業革会議が改善の両輪

 2004年7月に全店で稼働させた現行の店舗支援システムは、店長が深夜・早朝の閉店後に時には睡魔と戦いながら、電卓片手に1時間以上もかけて手書きで作っていた日報を、短時間で作成できるようにしたものだ。システム導入当時に店長だった千葉啓介エリアマネジャーは、「日報作成は15分ぐらいで済むようになった。おかげで、店長は接客や(店の収益率を左右する)ワークスケジュール表(アルバイト店員のシフト表)作りに、余裕をもって取り組める」と語る。

 店舗支援システムの導入効果はこれだけではない。このシステムは、年間100店前後のペースで増やしている店舗を、渡邉美樹社長が効率よく改善し続けるための重要な仕組みでもある。店舗が少なかった時分は、渡邉社長が店長を直接指導すればよかった。だが、これだけ店舗が増えると、いくら敏腕経営者として知られる渡邉社長とはいえ、すべての店舗を頻繁に訪問するのは不可能だ。

 そこでワタミでは、店舗支援システムと毎週火曜日の全社会合「業務改革会議(業革会議)」を両輪として、全店の業務と業績を分析・改善しやすくしている。店舗支援システムに蓄積された各店の日報情報をオフィスや外出先からいつでも閲覧できるため、エリアマネジャーや本部スタッフは業革会議の参加準備がしやすくなった。

 業革会議は、火曜日の午前7時から正午までの間に3段階に分けて本社で開催。全国から集合したエリアマネジャーなど約200人が参加する。まず7時からの第1部は渡邉社長から本部スタッフ、営業スタッフ、エリアマネジャーまでが一堂に会す。9時半からの第2部は業態ごとに分かれて業態トップを司会とした会議に変わり、第3部は業態・地域別に集まる。この一連の会議で、過去1週間にあったクレームの報告と、その対応策の周知徹底を行う。エリアマネジャーはその日の午後、担当する店長(5~10人)に対応策を伝達する。

店長目線で負荷軽減策を盛り込む

 実は、週次できちんと改善点を議論する場があるからこそ、店舗支援システムの入力項目が少なくて済み、入力時間を短くできた。日報では、(1)品目別の売り上げや原価、宴会比率、人件費などの日次業績、(2)接客などその日の店内業務の状況——を報告する。システム化によって、(1)は自動計算されるようにし、(2)は「クオリティー(商品品質)」「サービス(接客)」「スピード(配膳の早さ)」の3項目をそれぞれ「○」か「×」で申告するだけにした。

 しかも業務報告を簡単な○×形式にしたおかげで、報告内容の網羅性が高まり、統計分析がしやすくなった。

 ワタミでは、新卒入社後1~3年で社員が店長になる。店長の大半は体力も意欲もある若手が占めるが、店舗は深夜・早朝まで営業しており、業務は楽ではない。それだけに、余分な負荷をできるだけ減らしてやり、店長が店内業務に集中しやすい環境作りが重要なのである。

 この発想は、店舗支援システムのソフトウエア構成からもうかがえる。シトリックス・システムズ社の「メタフレーム」と呼ぶサーバー・ソフトを導入することによって、パソコンのアプリケーション・ソフトをメンテナンスするために情報システム部のスタッフが店舗を訪ずれたり、店長の手をわずらわせたりする手間を省いたのである。遠隔地からメンテナンスできるようにした。