米Network Appliance創設者で執行副社長のDave Hitz氏
米Network Appliance創設者で執行副社長のDave Hitz氏
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 ネットワーク・ストレージ,とりわけNASとiSCSIで出荷量No.1を維持しているベンダーが,米Network Appliance(NetApp)である(米IDC調査)。同社の創業者で執行副社長を務めるDave Hitz氏に,ストレージ市場の動向と技術を聞いた。

---ストレージ市場のトレンドは何か。

 もはやストレージはコンピュータに接続された機器ではない。ネットワークに接続されている機器なのだ。このトレンドによって,業界の構造は変わった。

 かつてはコンピュータ・ベンダーが独自のストレージを自前で持っていた。独自の半導体チップやOSを持っていたのと同じように,だ。こうした独自の半導体チップやOSは,米Intelや米Motorola,UNIXやWindowsへとリプレースされていった。

 1990年代,ネットワークの世界で戦いに勝利したのは,コンピュータ・ベンダーではなく,米Cisco Systemsだった。データベース管理システムも同様,米Oracleが勝った。ストレージの世界も同じだ。米EMCと米Network Applianceの2社が競争している。

 米Sun Microsystemsや米IBM,米Hewlett-Packardなどのコンピュータ・ベンダーは,ストレージ世界での優位性を失っている。チップやOSやネットワークの世界で敗北したのと同様,ストレージの世界でも敗北している。

 NASとiSCSIによるイーサネット接続型ストレージと,SAN(Storage Area Network)で使うFibreChannel接続型ストレージを合わせたネットワーク接続型ストレージの市場規模は100億ドルであり,年々増加している。この一方で,DAS(Direct Attached Storage,コンピュータ接続型ストレージ)の市場は年々縮小しており,今では50億ドル規模にまで減ってきている。

---NetAppはNASから派生したベンダーであり,イーサネットに注力しているという印象を持っている。同じネットワーク接続とは言え,FibreChannelはDASの延長線上にあるのではないか。

 確かにNetAppの出発点はNASだ。当初のNASは,中小規模の安価なストレージという地位にあった。ローエンドのワークグループを対象としていたのだ。その後にイーサネット接続ストレージは進化を遂げ,FibreChannelに匹敵するとまではいかないまでも,FibreChannelと似た位置にまで来ている。

 イーサネットとFibreChannelが似た地位にあるということになると,ユーザー企業は「イーサネットとFibreChannelの両方で使えるようにしてくれ」と言ってくる。こうした理由から米EMCはイーサネットという新天地に,NetAppはFibreChannelという新天地に手を広げている。重みとしては,米EMCはFibreChannelが,NetAppはイーサネットが大きく占めている。だが,もう一方の需要も,両社ともに拡大している。

---現状,FibreChannelの方がイーサネットよりも高価で性能も高いが,いずれFibreChannelは消えてなくなり,イーサネットに取って代わられるという説がある。FibreChannelの将来はどうなのか。

 メインフレームが消えるという説があったが,現在でもメインフレームは残っている。FibreChannelも同様だ。長年続くだろう。ビジネス・クリティカルなアプリケーションの場合は,人々はFibreChannelを選ぶ。

 もちろん,イーサネットで済む場合はイーサネットを選ぶことでコストを削減する。これは1990年代のRISC UNIXとWindowsの比較に似ている。Windowsで済む業務にはWindows,Windowsで済まない業務にはRISC UNIXを使っていた。1つの経験則として言えることは,“(そのアプリケーションが)Windowsで済む場合にはイーサネットでも済む”ということだ。

 NetAppはユーザーの需要に応じて製品ラインを広げてきた。元々はUNIXのためのNAS(NFS)から出発した。WindowsのためのNAS(SMB)を追加し,FibreChannelを追加し,VTL(仮想テープ装置)を追加し,SOX法対策や内部統制などコンプライアンス需要を狙った製品を追加し,データの暗号化などの製品を追加してきたのだ。

 顧客となるユーザー企業の幅も広げてきた。元々は,米Yahoo!などのインターネット業界が主な顧客だった。それが,1998年から1999年ごろにかけて,顧客層をエンタープライズ(企業)へと広げた。米Oracleや米Siebel Systems(現在は米Oracle)製品,Microsost Exchange ServerやSQL Serverといった,業務アプリケーションを使う層だ。

---NetAppのストレージはどういった技術上の特色があるのか。

 可能な限りシンプルにすることに注力してきた。ストレージ自体がシンプルであることはもちろんだが,ストレージを取り巻く状況,ストレージを管理する方法もシンプルにする。NetAppは,一種類のアーキテクチャで,NAS,iSCSI,FibreChannelという異なる3種のインタフェースを使える。また,ハードウエアの大きさが変わっても,単一のOSが動作する。

 ライバルの米EMCの場合は,NetAppと同様の機能を実現しているものの,それぞれを別製品として実装している。Symmetrix DMX,CLARiX,Celerra,Centera。これらは,それぞれ別個の製品であり,別のOSが動作している。管理者は製品ごとに別々のトレーニングを受ける必要がある。ユーザーにとって複雑な状況になっているというだけでなく,米EMCにとっても複雑になっている。新たな機能を追加する際に,それぞれの製品について違った展開をしていかなければならないからだ。

 ストレージを買う時,何がもっとも良い製品なのかを判断するにあたって,あまりにも多くの技術があるので混乱してしまう。無難な選択としてFibreChannelを選択したとする。しかし実際にはFibreChannelの性能が必要なかったとする。NetAppでは,これをiSCSIに切り替えられる。ストレージとしての汎用性を保っている。単一の機器をNASにもiSCSIにもFibreChannelにも切り替えられるし,OSは1つだけなので切り替えた際のトレーニングも必要ない。

 よく顧客と話をするが,毎年同じ金額をストレージにかけていたとしても,ストレージの容量は年々倍増するわけであり,その分,管理が大変になる。ストレージの負担は大きくなっていく。管理をするのも,ストレージの中から必要な情報を見つけ出すのも,難しくなっていく。容量の増加に管理者が付いていくためには,シンプル化を図らなければならない。企業は,ストレージの容量が増えたからと言って,管理者に割ける人件費を増やすことはできない。NetAppでは,前の年よりももっとシンプルに管理できるようできるよう,常に策を考えている。

---Dave Hitz氏の経歴は興味深い。カウボーイ出身であり,UNIXのカーネルやファイル・システムの設計・開発も手がけた。こうした経験はどう生きているのか。

 カウボーイの経験はコンピュータのスタートアップには非常に有効だった。スキルを身に付けたというよりは,姿勢を身に付けた。牧場では,カウボーイは私を含めて2人きりだった。2人で500頭の牛の面倒を見なければならなかった。問題が生じた際に,2人きりで問題を解決しなければならなかった。これは少人数で起業する際に役立った。従業員が5000人に増えた今でも,自分でやるしかないという姿勢を持つことは重要だ。

 NetAppを創業してから一番最初の仕事はプログラマだった。ファイル・システム,I/O,データ管理などの設計とコーディングを手がけた。現在ではプログラマの職には就いていないが,プログラマ出身であることのメリットは大きい。技術者との間で仕事を進める際,私に技術のバックボーンがあることが分かると,技術者は私を尊敬する。話のやり取りがうまくいくのだ。