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 アスクルの今後3年間の投資計画が明らかになった。岩田彰一郎社長兼CEO(最高経営責任者)は今後3年間で,総額150億円(1年当たり約50億円,今期は57億円)を次世代のビジネスモデル構築のために先行投資する決断を下した。

 7月5日に発表された2006年5月期の決算では,9期連続で増収増益を達成し,売上高営業利益率は5.4%となった。しかし今期から3年間は営業利益率をあえて5.0%に抑え,代わりに毎年50億円をシステム開発や物流センターの新設に振り向ける。これらの投資が実を結ぶ2010年以降は,一気に7%以上の営業利益率を達成する計画だ。

 岩田社長は他社との競争の関係上,「現時点では新しいビジネスモデルについて詳細をお話できない」としている。だが記者会見の内容や個別取材を総合すると,およそ次のようになる。

 オフィス用品のカタログ通販でスタートしたアスクルが狙う次のターゲットは,カタログには載っていない新しい商材の取り扱いによる顧客企業への「個別」対応だ。極端に言うと,製造業の顧客なら,製品の生産に必要な直接資材を除くすべての商材(間接材)をアスクルが安く調達して,まとめて届けるところまで念頭に置いている。

 既存のビジネスモデルでは,カタログに商品を掲載して顧客企業から注文をもらう。次世代のビジネスモデルでは,カタログには載せられなかった購入頻度や販売数量が少ない商品までをも,インターネット経由で幅広く販売することで「企業購買のワンストップ性を高める」(岩田社長)。

 このビジネスモデルを支えるインフラの1つが,今後3年で構築する「間接材一括購買システム」である。インターネットを使った中堅・大企業向けの購買代理サービスは企業単位の一括契約が必要になるもので,アスクルがいま最も注力するテーマの1つである。この購買代理サービス「アスクルアリーナ」の契約企業は5600社を超えた。もはやアスクルを,中小事業所に特化したオフィス用品の通信販売会社と呼ぶのは,ふさわしくなくなってきている。

 様々な商材を取り扱おうとすれば,調達や物流を変えなければならない。中でも大きく変わるのが在庫の持ち方だ。アスクルのコスト効率を考えると,今までのように注文があった当日または翌日に商品を届けるためにアスクルの物流センターにすべての在庫を置いておくのは非効率になるケースが必ず出てくる。急ぎでない商品なら,メーカー側にある在庫を取り寄せてから顧客に配送する仕組みも十分に考えられる。

 顧客企業のニーズは必ずしも,翌日配送だけにあるのではない。「必要な商品を手早く一度に注文してしまいたい」と考える企業も多いはずだ。そこには当然,カタログに載っていない商品も数多く含まれる。だとすると,「そこにお客様のニーズがある限り,アスクルも変わらなければならない」(岩田社長)。

 今後3年以内に稼働する「新調達システム」や新しい「SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)システム」も,この構想に乗ってくるものと思われる。同時に,2006年9月には物流の要となる新大阪センター(総投資額33億円)が,2007年8月には新仙台センター(総投資額13億5000万円)がそれぞれ稼働する。すべては新しいアスクルの商品提供スタイルを確立するために不可欠なパーツだ。

すべてのシステムがつながって初めてコスト削減できる

 アスクルの特異性は,既存システムと今後稼働する新システムがすべて同じネットワーク基盤上でつながり,統合されていく点だ。例えば,取引先メーカーとアスクルを結ぶ情報開示システム「シンクロマート」の利用企業は既に243社に達し,売上高の83.3%をカバーするまでに定着している。

 ここに新しい調達システムやSCMシステムがつながってくる。例えば,アスクルが取引先と需要予測と生産計画を共有し,アスクルが将来までのメーカー在庫を参照しながら,顧客の注文と随時マッチングしていくといった新しい取引形態が生まれる可能性がある。

 さらに2006年9月に稼働する配送サービスシステム「シンクロカーゴ」を使えば,配送途中にある商品が今どこにあるのかが瞬時に分かるようになり,コストを抑えながら顧客対応の精度を上げられる。将来,アスクルが翌日配送にこだわらない商品を扱うようになれば,ますます配送サービスシステムが欠かせなくなる。

 この6月に稼働した,顧客ニーズを集約するための社内ポータル「シンクロハート」は,購買履歴の分析だけでは分からない「顧客の潜在ニーズ」を1ヵ所に集結させる。特にアスクルアリーナを通じて入ってくる中堅・大企業からの「わがままな」お願いもここにひとまとめにして,検討する。集められた顧客の声が一定数を超えてくれば,これまでの取り扱い商品からはかけ離れた商材であっても,アスクルが大量に調達することで,安価に販売しても採算のメドが立つはずだ。

 岩田社長は1年半前の正月に社員を集め,「数年以内にアスクルのビジネスモデルを進化させる」と社内的に宣言していた。岩田社長は創業当初から,売上高が1500億円を超えてオフィス用品市場のシェアを10%取れたら,次のステージに行こうと考えていた。1年半前にはそのメドが立ち,この2006年5月期には計画通り,連結売上高が1616億円に達した。アスクルが変わらなければならない機は熟したわけだ。