YRPユビキタス・ネットワーキング研究所と日立製作所 中央研究所は7月4日,通信方式にUWB(Ultra Wide Band)を採用した無線ICタグ「UWB Dice(仮称)」を公開した。両組織の共同開発である。
UWB Diceは電池を内蔵するアクティブ型のICタグ。2タイプ用意し,一つは,本体サイズを1cm角の立方体に収め,温度センサーを搭載した小型の製品(写真1)。外部にセンサーを接続できる。もう一つは,温度や加速度などのセンサーを用途に合わせて本体に搭載できる,ひとまわり大きな製品である(写真2)。YRPユビキタス・ネットワーキング研究所の所長を務める坂村健 東京大学教授は,「UWBを通信方式に採用し,これだけ小型のアクティブ・タグは世界初」と強調する(写真3)。
通信方式にUWBを採用することで,低消費電力や高速通信など,ICタグとして使いやすい機能を実現したという。
まず,電池寿命を長くした。UWB Diceはボタン型電池で稼働する。5分に1回電波を送信する間欠動作で,電池の寿命は9年以上という。従来の微弱電波(315MHz帯)を使うDice(関連記事)の電池寿命は,同じ動作条件で約2年だった。「UWB Diceの通信効率は(従来のDiceの)1000倍」と坂村教授は説明する。UWB Diceの消費電力は2ナノワット/bps。
通信速度もアップした。通信速度は30メートル電波を飛ばす場合で最大250kbps,10メートル飛ばす場合で最大10Mbps。従来のDiceの通信速度は最大100kbps程度だった。
今回のUWB Diceは位置を特定することが可能だ。測位精度は30cm。測位方式は基地局への信号到達時間差を使うTDOA方式を使う。「30cmの精度でICタグの場所を特定できるため,物品管理などで効果を発揮する」(坂村健教授)。
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所と日立はUWB Diceを使った薬品保管庫のデモを見せた。Diceを付けた医薬品を間違った場所に置くと,基地局(受信機)が感知し警告を出す(写真4)。基地局から同時に識別できるDiceの数は約1000個。
UWBは米国で軍事技術として開発されたもので,高速にデータを送受信できる,ノイズに強いという特徴を持つ。UWBにはいくつか通信方式があるが,UWB Diceはインパルス方式を採用する。「消費電力が低い,電波を出している機器の位置を特定しやすいといったメリットがあり,ICタグに適している」(坂村教授)。
インパルス方式を使ったICタグ向け通信方式は現在,電機・電子分野の学会,IEEEで「IEEE802.15.4a」として標準化が進んでいる。標準化作業は2007年3月にも終了する予定。標準化作業にはYRPユビキタス・ネットワーキング研究所や日立製作所も参画しているという。「標準が定まり次第,UWB Diceの仕様もそれに合わせる」(坂村教授)。
UWBで使う周波数帯(500MHz帯以上)は,日本ではまだ認可されていないので使えない。今年秋には法制化される見通しで,YRPユビキタス・ネットワーキング研究所と日立はそれをターゲットに開発を進めてきた。なお,両社は実験室に限り,この周波数帯の使用許可を得ている。
開発に協力した日立製作所 中央研究所の矢野和男 センサネット戦略プロジェクトリーダは「適用分野が広い今回のタイプのICタグは,ビジネスとして大きく成功する」と期待を寄せる。
製品化した際の価格は,「量産する個数にもよるが,数百円から高くても数千円程度で出せるだろう」(坂村教授)という。今回発表したDiceは電波を送信するだけだが,来年の夏頃には,電波を受信して各種の処理が可能な製品を発表する計画である。
■変更履歴 YRPユビキタス・ネットワーキング研究所と日立が実験室だけUWBで使用する周波数帯の利用許可を得ている旨,記述を追加しました。 [2006/07/11 11:30] |