米Hewlett-Packardの研究所Hewlett-Packard Laboratoriesに所属するDr. Sven Graupner氏(Senior Scientist)
米Hewlett-Packardの研究所Hewlett-Packard Laboratoriesに所属するDr. Sven Graupner氏(Senior Scientist)
[画像のクリックで拡大表示]

 ITのシステムは最近,規模が拡大し,ますます管理が複雑になっている。その問題が最も大きく表れているのは,データセンターだろう。米Hewlett-Packardの研究所Hewlett-Packard Laboratoriesに所属するDr. Sven Graupner氏(Senior Scientist,写真)は,その課題を解決するために「Model Based Automation(モデルに基づく自動化)」という新しいIT管理の自動化技術を提唱している。この技術では,管理対象システムの「望ましい状態」をシステム内に定義し,それに向けてシステムの状態を制御することで自動化を実現する。現在,HP OpenViewなどで一部実装を始めたほか,他の管理製品にも展開する計画という。同氏にその技術が生まれた背景や開発状況を尋ねた。インタビューの要旨は以下の通り。

 われわれは大規模なデータセンターに主な焦点を当てて,管理の自動化に関する研究を進めてきた。数百のサーバーがあり,数百のアプリケーションがあり,何十人もの人員が管理に従事するような環境である。例えば,HPには世界中に140のデータセンターがあり,約7000のビジネス・アプリケーションがある。ITを維持・運用する年間コストは35億ドルに達する。これは売り上げの4.3%を占め,利益や研究開発投資額にほぼ匹敵する。今後,大幅なコスト削減が必要である。これは非常に平均的な数字で,他の企業も同様にコストがかかっているだろう。

管理システムの中に「望ましい状態」を保持

 IT管理の自動化はこの問題を解決する大きなカギの一つだと考えている。自動化そのものは新しい技術ではないが,より高度なものが必要だ。われわれは,管理システムの中に「Desired State(望ましい状態)」の情報を保持し,自動的にそこに近づける管理方式を開発した。この自動化を「Model Based Automation(MBA)」と名付けている。MBAでは監視対象のシステムの現在の状態を「Observed State(監視した状態)」と呼ぶ。また「コントローラ」と呼ぶ仕組みで,「Observed State」と「Desired State」の差を判別し,自動的に「Desired State」に近づけるようにシステムを制御する。たとえれば,エアコンで22度を望ましい状態として設定すると,そこに向けて温度を制御するような仕組みだ。22度という設定が「Desired State」で,実際の室温が「Observed State」になる。

 従来の自動化は,「機械化の状態」にすぎない。従来の自動化では「Desired State」はオペレータの頭の中にあって,オペレータがそれにシステムを近づけるように,イベントを監視し,スクリプトを組み,ワークフローに従って処理を実行するような作業を行う。

 既にMBAによる構成管理の自動化は,当社のシステム管理ソフト「HP OpenView」のConfiguration Managerというソフトウエア構成管理ツールに実装されている。このほか,システム・リソースの管理を担う,gWLM(Global Workload Manager)やWLM(Workload Manager)という管理ツールによっても実装されている。今後,この仕組みをより広い範囲の製品に展開していく計画だ。

 「Desired State」といったMBAの概念を使わなくても,同じことはスクリプトを使ってもできる。しかし,そのときはサーバーが何台あるか,それぞれに何が入っているかという状態の情報と処理した後の状態の情報を常に記録したり,誰かが覚えていたりする必要がある。

新しい自動化を進めるツールキットを作成

 MBAに基づく管理システムを構築するためのツールキットも開発した。例えば,MBA用のAPI(Application Programming Interface)を提供するHP Automationコントローラ・ツールキットというものを社内向けに作成している。HP OpenViewなどで使え,「コントローラ」の機能を提供する。DMTF(Distributed Management Task Force)が規定した「WS-Management」というシステム管理用のWebサービスの標準に準拠したものだ。もちろん,レガシー・システムは,MBAでいう「コントローラ」機能を提供するようにはできていない。その場合は,古いインタフェースに対するラッパーを付与してMBAに対応できるようにする。

 実際に,HPのブレード・サーバーとOracleデータベースという,異なるベンダーの製品で構成したシステムにおいてMBAを実現する検証も行った。MBAの中では,いかなるマネジメント・システムも統一されたAPIを使ってコントロールできるようになる。具体的には以下の管理を可能にした。

(1)HPのブレード・サーバー・システムに,Oracle DBをプロビジョニング(配備)する。
(2)Oracleデータベースの状態によって,HPのブレード・サーバーのシステム構成を変更する。具体的には,DBのテーブル・サイズが大きくなり,ディスク容量が不足したとき,HPのサーバーにディスクを追加するとともに,OracleがこれをDBに追加してオペレーションを続ける。
(3)Oracleデータベースの負荷が重くなり,応答時間が悪化したとき,HPのブレード・サーバー・システムのハードウエアをOracle DBのシステム用に追加する。

 特に(2)と(3)ではHPのシステムとOracle DBの管理ツールであるOracle Enterprise Managerの緊密な連携が必要になってくる。Oracle Enterprise ManagerにはMBAのコントローラ用APIがなく,そのままでは自動化できない。そこでOracle社にツールキットを提供して,コントローラを作ってもらった。