グーグル 代表取締役社長 村上憲郎氏
グーグル 代表取締役社長 村上憲郎氏
[画像のクリックで拡大表示]
Googleのサーバー群と,社内の壁に技術者が思い思いに書いたアイデア
Googleのサーバー群と,社内の壁に技術者が思い思いに書いたアイデア
[画像のクリックで拡大表示]
Googleのサーバー群
Googleのサーバー群
[画像のクリックで拡大表示]

 「Googleのミッションは情報を整理して届けること」---グーグルの代表取締役社長 村上憲郎氏は6月29日,情報通信政策フォーラムのセミナーで講演,Googleの思想やビジネスについて説明するとともに,会場からの質問に答えて検索結果の削除基準などについて説明した。

 村上氏は「Googleの考え方」と題して講演。Googleのミッションは「世界のあらゆる情報を整理して世界中の人がアクセスできるようにすること」であり,それをファイナンス面で支えるために広告があると語った。メールやニュース,地図など様々なサービスを提供しているが,いずれも検索の延長にあるという。

 Yahoo!は「目次」,Googleは「索引」であり,Googleはポータルを目指しているのではなく,Googleとしか呼べないビジネスモデルであると村上氏は言う。

Googleのサーバーは秋葉原より安い

 サービスを支えるインフラを村上氏はこう表現する。「これまであまり語られてこなかったが,背後にとてつもないスケールのコンピュータシステムが存在する。巨大なサーバー,究極のフォレルト・トレラント,グリッド・コンピュータとでも呼べる,世界で最大規模のシステムがあり,現在もその規模を拡大しつつある」。

 またこのシステムはきわめて廉価に作られているという。「みなさんが使っているパソコンの部品と同じで,最先端の部品などは使っていない。コストパフォーマンスのよいもの,マザーボードで言えば必要のない機能を削ぎ落としたもので,秋葉原で買ってくるより安く買っている」(村上氏)。これらのサーバーはオープンソースOSのLinuxで動いている。

 Googleの強みは社員の半分を占める約3500名の優れた開発エンジニアであると村上氏はいう。研究開発拠点は本社のあるマウンテンビューのほかニューヨーク,東京,スイスのチューリッヒ,インドのバンガロールにある。「市場があるところではなく,優れた人材がいるところに拠点を設けている。ローカライゼーションはマウンテンビューで行っており,各拠点はローカライゼーションのためにあるのではない」(村上氏)。

 Googleが技術者を引き付けている理由については,技術者の自主性を重んじる社風もあるが「Googleの巨大なインフラを使えることが彼らにとって魅力になっている」(同)。

ネットに乗っていない情報を検索可能にする

 Googleがこれから目指すものについて,村上氏は「ネット上の検索はそこそこ出来てきた。ネット上の情報は引き続き主要な課題だが,今後はまだネットに乗っていない情報,紙の上に印刷されている情報やビデオなどを検索できるようにしていく」と語った。GoogleはすでにGoogle BooksやGoogle Videoといったサービスを開始している。

 またプライベートな情報も検索の対象に加えていく。パソコンのハードディスク上の情報を検索するGoogle Desktop。ファイアオールの向こう,イントラネット上の情報を検索する,Linuxを搭載した検索専用マシン「Google検索アプライアンス」がその例である。ただし「検索したプライベートな情報をGoogleが吸い上げることはしない」(同)という。Google検索アプライアンスの収入はGoogle全体の収入の1%程度になっている。

紙,ラジオ,テレビへの広告配信も

 Googleの収入は99%が広告だが,その多くが「月1万円からといった小口の,しかし積み上げれば膨大になるロングテールの顧客からの広告」(村上氏)という。「顧客が検索している,即ち買う気満々の時に,検索内容に合わせた広告を表示することで,広告のROI(投資対効果)を画期的に改善した」(同)。

 Google Videoでは有償コンテンツの販売も行っているが「Googleとしては基本的に広告モデルにしていきたいが,課金したいというコンテンツオーナーのために販売も行っている」という。広告モデルの場合,広告料金の8割がコンテンツオーナーに,2割がGoogleに配分される。

 新しい広告の形態としては,紙の雑誌への広告を実験している。「雑誌の広告スペースが余った場合などに,即座に入稿できることが利点」(同)。ラジオ広告の開発も進めており,番組で話された話題に即した広告を選んで放送する技術を開発している。

 テレビ広告については「現在の形態でのテレビでは無理だが,放送と通信の融合の中で,Adsense for Videoといったものも考えられるのではないか」と語った。すでにGoogleはビデオ広告を配信するサービスも開始している。

 また検索やサービスの品質を高めるためには「万人向けのサービスはそろそろ限界に近づきつつある。今後は品質を高めるためにパーソナライズが重要になってくる」との見解を示した。

検索結果から情報を削除する3つのケース

 会場からは「検索結果に表示されないよう情報を削除する,いわゆる“Google八分”について日本法人はどの程度イニシアティブを持って行っているのか」などの質問がなされた。

 村上氏は「情報を削除するケースには3種類ある」と話す。ただし「基本的には削除したくない。我々がそういったことを行うのは僭越であると考えている」(同)。

 削除を行う1つめのケースは「犯罪にからむサイト」。児童ポルノ,麻薬販売,テロリズム称賛などのサイトである。犯罪にも各国の事情によるものがあり,例えばドイツではナチスを礼賛するサイト,日本では架空口座販売が非合法として削除対象になる。

 2つめはSPAM的な手法によって検索順位を向上させるサイト。古典的な手法では,背景と同じ色のフォントでキーワードを埋め込んでおくサイトなどがある(参考:GoogleのWebmaster Guidelines)。

 3つめは「個人や法人から『このサイトは自分の権利を侵害している』というクレームがあったサイト」だ。権利侵害とは,著作権侵害や名誉毀損である。「こういったケースは非常に悩ましい」(村上氏)。「そのような場合,グーグルではまず『基本的には我々のあずかり知らぬところであり,コンテンツの持ち主とお話しください』と答える」(同)。しかし当事者同士で解決しないケースが多く「内容証明付で削除要求が送付されることも多い」(同)。

 「日本にはサービスプロバイダ責任制限法もあるが,実際に権利侵害が発生している場合,Googleが訴えられる恐れがある。我々に司法判断はできないが,株主に損害を与えないため,法務部が判断し,要求が正当と考えられる場合削除する。削除した事実は米国の第三者機関に提示している」(村上氏)。また「法律が整備され損害賠償が免除されるとしたら削除を行わないのか」との質問に対しては「例え賠償を逃れられるとしても明らかな権利侵害が発生している場合は看過するわけにはいかず,削除せざるを得ないのではないか」との見解を示した。

 中国向けの「Google.cn」では中国政府の要求によるとされる検閲が行われ「一部のデリケートな情報」(Google)が検索結果に表示されない(関連記事)。この件について村上氏は「『法輪功』や『天安門事件』は1つめの,犯罪に関するケースであると考えている。中国に関しては,社内でも大激論があり,忸怩たるものはあった。しかし,中国のユーザーがサービスを利用できるようにすることが重要だと考えた」と語った。

 会場からは「自分のサイトに貼ったGoogleのAdsense広告が無料の公共広告になっていた。新聞などは広告の掲載基準を公表しているが,Googleは掲載基準をなぜ公表しないのか」という質問もあったが,村上氏は「個々の事例については回答していない」と答えるに留まった(参考:Google AdSense プログラム ポリシー)。

技術者は広告が貼れるかどうかを考えてはならない

 また「Googleはサービスを次々と提供しているが,必ずしもビジネスとして成立するかどうかわからないサービスもある」という質問もあった。

 村上氏は「Googleの目的は情報を整理して届けることで,広告ビジネスはそれを支えるために行っている。技術者に対しても,サービスを考える際に『そこに広告が貼れるかどうかを考えてはならない』と言っている」と回答。Googleにとって広告ビジネスは手段であるという考え方を改めて説明した。


【追記】
Google AdSense プログラム ポリシー」へのリンクを追加しました(2006年7月2日)