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 「日本の大学は、企業で即戦力となる高度なIT(情報技術)人材を育成する視点に欠けていた。これは企業や国の責任でもある。韓国や中国、インドなど諸外国にはきちんとしたIT人材育成戦略がある。日本でも産学官が連携し、優秀なIT人材を生み出す仕組みを作らなければならない。日本はいま、欧米はもちろんアジア諸国にも追いつかれ、がけっぷちにある」

 トヨタ自動車の張富士夫会長は6月28日、早稲田大学大学院国際情報通信研究科/電子政府・自治体研究所が主催する4日間のセミナー「グローバル e-ガバナンス」において、午後の基調講演に登場。日本経済団体連合会(経団連)の代弁者として、実践的なIT人材の育成状況への危機感を30分にわたり熱く語った。張氏は、経団連の副会長を務める。

 経団連は今年5月、「CIO(最高情報責任者)やITプロジェクトマネジャー、組み込みソフトウエア開発者など企業内ITの中核業務を担う高度なIT人材の育成を進めるために、2007年度から『拠点大学院』を設立する」と発表している。拠点大学院とは、COE(センター・オブ・エクセレンス:世界一流の技術者や研究者を育成する機関)の役割を果たす大学院を指す。

 経団連は既に拠点大学院の候補を選定済み。筑波大学、九州大学、立命館大学、東海大学、静岡大学、信州大学、新都心共同大学院、東洋大学、琉球大学の計9校がそうだ。早ければ2007年4月からこれらの学校内に、IT人材のCOEが設立される。経団連は特に筑波大学と九州大学の2校を重点的にサポートし、IT人材に対する産業界のニーズを詳しく伝えていく。

 経団連の試算によると、産業界には毎年新卒者として一流のIT人材が1500人程度必要だが、現状ではほとんど確保できていない。新卒者のうち即戦力になるIT人材はわずか1割にすぎず、新卒者向けのIT研修を受けても業務をまっとうできない人材が約2割もいる。とりわけ、ITのコア技術であるソフトウエアの開発者不足が深刻だという。講演で張会長は、「今回の取り組みに否定的な意見もあるが、IT人材不足は差し迫った危機として産学官の共通認識であるのは間違いない」と警告した。