商品開発体制を刷新した泉谷直木・常務取締役酒類本部長(右)と、ビール系飲料の開発責任者に就任した池田史郎・酒類本部マーケティング本部商品開発第一部長(左)
商品開発体制を刷新した泉谷直木・常務取締役酒類本部長(右)と、ビール系飲料の開発責任者に就任した池田史郎・酒類本部マーケティング本部商品開発第一部長(左)
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6月20日に酒類本部内で開かれた「泉谷さんとざっくばらんに語る会」の様子
6月20日に酒類本部内で開かれた「泉谷さんとざっくばらんに語る会」の様子
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 アサヒビールが「お客様研究」のエキスパートをビール系飲料の商品開発責任者に据え、今年第1四半期(1~3月)にビール系飲料の市場シェア(ビールと発泡酒、第3のビールの合計)で6年ぶりに逆転を許したキリンビールに挑む。

 アサヒは6月1日付けで商品開発体制を刷新し、酒類本部の中に「マーケティング本部」を新設。その下に新たに「商品開発第一部」「同第二部」「宣伝部」を置いた。これまで商品カテゴリーごとに分散していた商品開発部隊を、ビール系飲料と低アルコール飲料を第一部に、焼酎や洋酒を第二部にそれぞれ集約した。

 なかでも注目なのが、ビール系飲料の商品開発を担う第一部(28人)を率いる新しい責任者である。商品開発第一部長には、同社の「お客様生活文化研究所」の所長だった池田史郎氏が就任した。お客様生活文化研究所はアサヒが2000年10月に設立した研究所で、「食と健康」に関する顧客のライフスタイルや嗜好(しこう)の変化を調査・分析する社内機関である。

 特徴的なのは、人が幸せを感じる道筋を意味する「しあわせ回路の発見」を研究テーマに掲げていること。「人(嗜好や価値観)」「文化(歴史や習慣、流行)」「空間(自然環境や街、家)」の3つの視点から、消費者の食行動を研究している。

 池田氏を商品開発第一部長に抜擢した泉谷直木・常務取締役酒類本部長は、池田氏を起用した理由として「もう一度、顧客の目線に立ち戻ってニーズやウォンツの情報を収集し、顧客のライフスタイルに合った新商品を開発するため」と明かす。こうすることで「新商品のヒット率が落ちている現状を打開する」(泉谷常務)

 このところ、発泡酒と第3のビールでキリンに押されているアサヒ社内では「組織に焦りが感じられる」(泉谷常務)という。そこで新商品の開発体制を入れ替え、責任者も代えることで「会社全体の雰囲気を変えたい」(同)

 ただし、開発体制の変更に戸惑う社員がいたことも事実だ。そこで6月20日には酒類本部内で「泉谷さんとざっくばらんに語る会」を開催。若手を中心に約25人が集まり、ビール片手に酒類本部トップの泉谷常務と組織変更の真意を語り合った。

第3のビールは清涼飲料に似ている

 泉谷常務は池田部長が元々は、清涼飲料のヒットメーカーであることにも期待している。池田部長はお客様生活文化研究所長に就任する前まで、長くアサヒ飲料で商品開発を担当していた。缶コーヒー「ワンダ」の開発をはじめ、高級茶葉を使った烏龍茶、三ツ矢サイダー、バヤリースなど、アサヒ飲料の主力商品に広くかかわった経歴を持つ。さらにその前には、工場でものづくりにも携わった。

 泉谷常務は、「第3のビールは商品のライフサイクルが短く、清涼飲料に近い動きになると予測している」と語る。清涼飲料の世界では毎年次から次へと新商品が発売され、生き残るのはそのうちのほんの一握りだけだ。コンビニエンスストアなどでの飲料棚の奪い合いも激しい。

 短命で、しかも売り場での競争が激しい清涼飲料を経験してきた池田部長に、清涼飲料の動きに似てきたビール系飲料の開発を任せることで「新商品の開発スピードを従来よりも30%上げつつ、それでも売り場で顧客に手に取ってもらえるビールを送り出していきたい」(泉谷常務)

 アサヒは、キリンの第3のビール「のどごし<生>」に対抗するため、同社の第3のビール「新生3」の販売を続けながら、5月末には新たに「ぐびなま。」も投入。新生3とぐびなまの2つのブランドで、のどごしからのシェア奪還を狙っている。それでも敵わないと見れば、3つ目、4つ目の新商品を矢継ぎ早に第3のビール市場に投入してくる可能性が高い。発泡酒でも同じことが言える。池田部長の手腕に注目したい。