IBMフェローのカール氏 米IBMは2006年末に、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)、東芝と共同で開発したプロセサ「Cell」を搭載した製品を投入する。Cellの開発責任者を務める、IBMフェローのセル&カスタム・パワー・システムズのチーフ・テクノロジスト、ジェームス・カール氏(写真)に、IBMにおけるCellの活用法と今後の動向について聞いた。同氏はIBMでPOWER4プロセサの開発にも携わっていた。

——Cellのプロジェクトの現状は。

 現在はCell自体の開発は終了し、実装の段階だ。SCEの「プレイステーション3(PS3)」だけでなく、今年はIBMとしてブレード・サーバーに搭載していく。各社とも、「Cellをいかに大量に低コストで開発できるか」に焦点を当てて作業を進めている。

 IBM、SCE、東芝の3社はそれぞれ、Cellのライセンスを他の企業向けに個別に提供している。例えばIBMは、高性能コンピュータを設計・製造する米マーキュリーコンピュータシステムズにライセンスを供与している。

——Cellが向く用途は。

 スーパーコンピュータの性能を1チップで実現したのがCellだ(本誌注:Cellは動作周波数4GHz以上、1プロセサの浮動小数点演算性能が256GFLOPS以上とスーパーコンピュータ並みかそれ以上の能力を持つ)。このため、用途は多岐にわたる。

 スパコン並みの性能を持つクライアント・マシンに搭載されることもあれば、もちろんサーバーでも利用するだろう。例えば、航空宇宙や防衛、医療、公衆のセキュリティ監視、オンライン・ゲームといった用途がある。画像処理だけでなく、大量のデータを演算する金融の分析にも向いている。

 つまりCellが得意とするのは、マシンに入出力するデータ量が大きく、画像処理の負荷が高いリアルタイム性を要求される処理だ。我々は「ブロードバンドのプロセサ」と呼んでいる。演算能力が高いだけでなく、プロセサ内のバスの帯域幅も広い。

——それらの用途なら、POWERプロセサ単体でも実現できるのではないか。

 それは違う。Cellの価値は、POWERプロセサと八つの汎用プロセサを組み合わせた結果、得られるリアルタイム性にある。パソコンであれば、1分あたり1フレームしか処理できない三次元画像を、Cellを使えば1秒で30フレームを処理できる。POWERでも0.6秒で1フレームを処理できる程度だ。

 こうしたリアルタイムの処理を、Cellは1チップでできる点が重要だ。コストの面でも安価になる。

——今後のロードマップや互換性については。

 今のところ、Cellのアーキテクチャに満足している。少なくとも、あと10年は使い続けていくつもりだ。もちろん設計や実装に関する強化は進めていく。

 Cellは当初から省電力を目指しているが、将来的にさらに動作電圧や消費電力を下げていく考えだ。一般的な考えだが、コアの動作周波数を落として、コア数を増やしていくのは自然の流れだろう。実際、IBMはPOWERプロセサでマルチコアを推進している。消費電力を減らすことで、利用範囲はもっと広がるだろう。Cellをモジュールとして、様々なシステムに搭載していくことも可能になるはずだ。

 ロードマップは開示していないが、将来にわたって互換性はきちんと確保していく。米国にあるCellの開発センターには、設計などを統制(ガバナンス)する部門を置いている。