「足の冷えない不思議なくつ下」
「足の冷えない不思議なくつ下」
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 「足の冷えない不思議なくつ下」。こんなネーミングで顧客の目を引く機能性くつ下が、昨年秋から街のドラッグストアでちょっとしたヒットになっている。

 発売しているのは、小林製薬の連結子会社である桐灰化学(大阪市)。昨年9月の発売から今年3月までの半年間で90万足、金額にして7億円を売り上げた。2006年3月期に連結で増収増益になった小林製薬のなかでも、桐灰の前期の売上高は前年比31.5%増と大幅に上昇。約100億円の売上高のうち7億円は、前期後半に投入した「不思議なくつ下」で稼ぎ出した。不思議なくつ下は桐灰の前期の増収に、少なからず貢献した。

 足の冷えない不思議なくつ下はその名の通り、断熱繊維を使った保温性の高いくつ下だ。にもかかわらず、湿気や汗は外部に逃がす特性を持つ。それがこのくつ下の売りである。購入客の90%以上がアンケート調査で「通常のくつ下より保温性が高い」と評価しているという。

 そして何といっても、人目を引く不可思議な商品名。いかにも、ネーミングで工夫する小林製薬グループの商品らしい。

 しかしである。この不思議なくつ下は、もともとは小林製薬の商品でも桐灰の商品でもなかった。奈良県に本社がある塚本産業という中小企業が、自社の繊維素材を使って販売していた知る人ぞ知る商品なのだ。

 塚本産業は不思議なくつ下で年間約4億円を売り上げていた。その商品を、奈良の隣りの大阪に本社がある小林製薬の商品開発担当者が発掘。塚本産業から足の冷えない不思議なくつ下のブランドと販売権を買い、昨年秋にカイロ事業を展開する桐灰の商品ラインナップに加えた。

 この冬は寒さが厳しかったので、桐灰のカイロは大幅に売り上げを伸ばしたが、その前の冬は暖冬で売り上げが落ち込んだ。カイロの売り上げはその年の寒さに大きく左右される。だから売り上げが読みにくい。

 そこで小林製薬は、2001年に企業買収した桐灰にカイロ以外にも「体を暖める」商品を増やし、売り上げを安定させようとした。小林製薬グループの「あったか事業」強化のため、企業やブランドの買収まで視野に入れていた担当者が不思議なくつ下を隣県から見つけてきた。商品の名前にも、小林製薬の既存商品に合い通じるおもしろさがある。

 桐灰は昨年秋、不思議なくつ下を売り出すに当たり、塚本産業時代と3つの大きな変更を加えた。1つ目は、販路を桐灰が強みを持つドラッグストアに絞ったこと。2つ目は商品ラインナップを売れ筋に絞り、塚本産業時代の4分の1以下に減らしたこと。3つ目はパッケージを変更し、不思議なくつ下を履いている足の写真を載せたことだ。すべては顧客に商品を分かりやすく伝えるための工夫である。

 商品名はおもしろいが、結局何のための商品なのかが売り場やパッケージから正確に伝わらないと、今の顧客はなかなか買ってくれない。小林製薬はネーミングだけでなく、売り場作りとパッケージ制作を常にセットで考えている。

 なかでも注目したいのが、1つ目の販路変更だ。販売チャネルとしては、塚本産業が開拓していた衣料品店やデパートのルートを思い切って捨てた。衣料品店が扱うくつ下はファッション性が高い商品が中心なので、そこでは不思議なくつ下のような機能性くつ下は目立ちにくい。

 そこで、桐灰がもともと得意とするドラッグストアに全商品数の70%を集中投入。「冷え性に悩む女性」をメインターゲットに据え、冷え性の改善くつ下としてドラッグストア中心で顧客に売り込んだ。ドラッグストアの中でも特に桐灰が売り場作りに影響力を持つカイロ棚の一部に不思議なくつ下も一緒に置いてもらうことで、厳しい寒さをしのごうとカイロを買いに来た顧客に、保温性の高い不思議なくつ下まで知ってもらい、商品の認知を一気に高めた。

 桐灰は不思議なくつ下を通年商品に育てるため、この春夏向けには新たに「足のムレない不思議なくつ下」を投入した。湿気や汗を外部に逃す繊維の特性を生かして、暑い夏場でも不思議なくつ下ブランドの認知を図ろうとしている。